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高笑い【グレイス視点】

 あぁ~、何て気分が良いのかしら……


 ドンファン伯爵邸に帰ってきたグレイスは、高揚する気分そのままに、自室へと戻ってきた。アンティーク調のソファに腰掛け、王城で行われた夜会を思い出す。


 リアムにエスコートされ向けられる羨望の眼差し。社交界の寵児とも呼ばれる攻略対象者の一人、リアムとの婚約は、グレイスに様々な恩恵を与えた。ウェスト侯爵家のリアムとの婚約が、グレイスの白き魔女としての立場を確固たるものにした。


 今や、グレイスのことを疑う者はいない。誰しもが白き魔女だと自分を持てはやす。まさに乙女ゲームのヒロインそのままの展開に、グレイスの笑いは止まらない。


「あぁ、気分がいいわ。攻略対象者のリアムも私の手に落ちた」


 リアムと踊ったダンスを思い出し、笑みが深くなる。


 多くの令嬢から向けられる羨望の眼差しと、嫉妬の視線。あの場にいた多くの令嬢達から向けられる醜い嫉妬の視線を浴びながら踊るダンスは、最高に気分がよかった。


(私が乙女ゲームのヒロインなんだから、お姫さま扱いされて当然なのよ。あの女さえ、現れなければ、デビュタントの夜会で注目を浴びていたのは、私だったのよ!)


 デビュタントの夜会で攻略対象者達と次々と踊っていた女を思い出し、グレイスの怒りの炎が燃えあがる。


(私からヒロインの座を奪ったアイシャとか言う女が悪いのよ。モブですらない、名前も出てこない女の癖に、出しゃばるのがいけないのよ。これからは私がこの世界のヒロインとして君臨する!)


 今日の夜会は最高だった。リアムとの婚約を大勢の貴族から祝福され、白き魔女としての評判も上々だ。


 まさか誰もグレイスに『さきよみの力』がないとは、思っていない。


(そう……、私に『さきよみの力』はない)


 ドンファン伯爵の養女になるまでは、皆が言うように、未来を見通す力があったのかもしれない。しかし、それは、ただ乙女ゲームの知識通りに動いていただけ。グレイスに予知能力があるわけでは無いのだ。


 社交界で言われているグレイスの『さきよみの力』は、ドンファン伯爵の親しい貴族家にのみ行われている。それは、裏でドンファン伯爵の手下共が、予知した通りの行動を起こしやすくするためだ。つまりは、『さきよみの力』があるかのようにグレイスに予知をさせ、ドンファン伯爵が裏工作をしているだけのこと。


 領地で橋が落ちると予知すれば、その通りに橋を爆破し、賭博で大損すると予知すれば、その通りに暗躍するだけだ。グレイスが行う予知は、個人的に暗躍出来る小さなものばかりだが、実際に予知が当たった人間の衝撃は大きく、噂はあっという間に尾鰭がつき、社交界に広がった。

 

 今や『白き魔女』を養女に迎えたドンファン伯爵の地位はうなぎ上りだ。白き魔女としてもてはやされるグレイスの『さきよみの力』が嘘だとしても、広がった噂はいつしか確信に変わり、疑う者など誰もいない。だからこそ、ウェスト侯爵家のリアムとの婚約もスムーズに進んだのだ。


 前世やっていた乙女ゲームのヒロイン、グレイスにも『さきよみの力』なるものは、なかった。ただ莫大な魔力量を有していただけだ。敵を倒したいと強く願えば攻撃魔法が発動され、守りたいと思えば防御魔法が発動する。そして、誰かを助けたいと強く願えば治癒魔法が発動するという万能型魔法の使い手だった。しかし、その魔法の源となる力すら、グレイスは未だに感じることが出来ない。


(私は、ヒロインと同じ名前だけど、『白き魔女』の力は持っていない)


 他にも、乙女ゲームと違う点が数多くある。


 アイシャの存在もだが、今回王城で発表されたノア王太子とアナベルとの婚約発表も、その一つだ。確かに乙女ゲームの中にも、このイベントはある。しかし、本来であれば悪役令嬢アナベルを嫌っているノア王太子が甘い顔でアナベルを見つめるはずがないのだ。


(私が知る乙女ゲームの世界とは僅かに違う世界。でもそんなの関係ないわ)


 白き魔女として認められた今、この世界のヒロインは私で間違いない。


 誰にも私の野望を邪魔させない。


 リアムを手に入れた。次はキースだ。

 そしてゆくゆくは、ノア王太子を手に入れてみせる。


『アイシャ・リンベル』


 忌々しい女だこと……


 社交界での評判も地に落ちたと言うのに、未だにキースと一緒にいるなんて、本当に目障りだ。あのまま引き篭もっていれば良かったものを。


 夜会でチラッと見かけたアイシャは、キースにエスコートされノア王太子に挨拶をしていた。キースがあの女を守るように、眼光鋭く周りを見すえていたことも気にくわない。


(悲劇のヒロインみたいに、攻略対象者に守られるなんて何様のつもりよ!! キースの隣はヒロインである私のものなのに……)


 アイシャに対する嫉妬の炎が、グレイスの心の中で燃え上がる。


 どうやってあの女を蹴落としてやろうか……


「ふふふ、……あの女は時々街に出掛けると、セスが言っていたわね」


 しかもフラッと一人で出掛けカフェでお茶をしているとか。本当にバカな女だ。


 ドンファン伯爵子飼いのゴロツキを使って襲わせるのもいい。奴は私の言いなりだから、すぐにゴロツキを融通してくれるだろう。


 めちゃくちゃにされて仕舞えばキースも愛想を尽かす。まぁ、ショックで自ら命でも絶ってくれたら最高だ。


 楽しみだわぁ……

 

 あの女が絶望に落とされる所はぜひ間近で見たい。


 アイシャを陥れる計画を練りながら、一番信頼のおける専属執事セスを呼び出すため、グレイスは呼び鈴を鳴らした。


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