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最悪の出会い

 控え室へと戻ってきたアイシャは、一瞬目に入った鏡の前に立ち大きなため息をつく。


(やっぱり、これはやりすぎじゃないかしら)


 鏡の中には、ヒラヒラのピラピラのレースがふんだんに使われたピンクのドレスに身を包み、髪をアップにまとめた少女が写っていた。


 確かに美人だとは思う。前世と比べたら月とスッポン。


 贅沢だと言われてしまえばそれまでだが、軽く化粧を施された顔は七歳にしては迫力があり過ぎる。ゴージャスな金髪につり目がちなコバルトブルーの瞳が迫力を醸し出しているのは仕方ないにしても、アップにまとめられた髪型のせいで、いつもより数割り増しキツい印象を受ける。


(こんなに完璧に仕上げなくても……)


 髪をフワッと下ろすだけで柔らかい印象になるのに、わざわざアップにするなんて、嫌がらせとしか思えない。『お嬢さま、まるで花の妖精です!』と言ったメイドの満面の笑みを見れば嫌がらせではないと分かるが、この顔にピンクは似合わない。


(これじゃ、何処ぞの悪役令嬢みたい……、まさか悪役令嬢じゃないよね?)


 アイシャはゴージャス過ぎる自身の顔を見つめ、内心冷や汗をタラタラ流す。


(私が悪役令嬢だなんてあり得ない。それに、金髪はエイデン王国にはよくいる髪色だし、ね)


 そんな慰めを心の中でつぶやいていても、巣食った不安は消えない。


(こんな誰もいない静かな部屋にいるから、色々考えてしまうのよ)


 鏡の前から立ち去り、窓辺へと近づき外を眺めれば、ちょうど薔薇の生垣で囲われた我が家の庭園が見渡せた。気分転換に窓をあければ、爽やかな風が芳しい薔薇の香りを届けてくれる。

 

 ぼんやりと庭園を眺めていたアイシャは、あまりの驚きに叫び声をあげた。


「ウソ!! 何、あのスリーショット!」


 庭園の中央に設られた四阿(あずまや)に人影が見える。とてつもない美形男子三人組が仲良く歓談しているではないか!?


 一人はアイシャの兄、ダニエルで間違いない。しかし、あと二人に見覚えはない。


 窓際から(きびす)を返すとピンクのドレスの裾をつかみ走り出す。いても経ってもいられなかった。


(美形三人組のスリーショットを逃す手はない)


 控え室の扉を開け廊下へと躍り出たアイシャは走り出す。もう周りのことに構っていられる余裕はない。早く行かねば、あのスリーショットが間近で見られなくなってしまう。その一心で、廊下を駆け抜けたアイシャは、庭園に一番近い裏口から外へと出ると、一直線に生垣へと向かった。


(あぁぁぁぁ、たまらん。眼福♡)


 迷路のような生垣を走り数分後、四阿を間近に見つめその場へと隠れてしゃがむ。そこには、兄に負けず劣らずの美少年がいた。


 柔らかくウェーブのかかった金髪に碧い瞳の美少年と長い赤髪を一つにまとめた緑の瞳の美少年。


(はぁ~いい。美少年のスリーショット! 大好物だわ)


 アイシャはヨダレを垂らす勢いで眼前の光景にかぶりつく。三人は親しげに話し込み、アイシャの存在に気づく様子はない。


(同じくらいの年かしら?)


 眼前に広がる煌びやかな光景に、アイシャの脳内妄想が開始される。


(はぁ、久々のこの感覚。懐かしい……、あの三人はどういう関係? まだ恋は自覚してないのかしらねぇ~)


 優しい雰囲気の金髪碧眼の少年を二人が取り合う。

 大人になるにつれ、自覚する恋心。そして自分と同じ様に見つめる視線に気づく。

 友人がライバルに変わる瞬間………


 二人から愛を向けられた彼は戸惑いながらも受け入れていくが、二人の間で揺れ動く恋心。


 果たして彼はどちらを選ぶのか?

 それとも二人の愛を受け入れるのか?


(――――たまらん♡)


 美少年三人をオカズにあらぬ妄想を繰り広げニヨニヨしていたアイシャは気づいていなかった。いつの間にかダニエルと金髪碧眼の美少年が消えていることに。そして赤髪の少年がこちらに向かって歩いて来るではないか。


(ヤバイヤバイヤバイ……)


 焦ったアイシャは、慌ててその場から四つん這いで逃げようとして捕まった。


「これはこれは、毛色の変わった猫が捕まりましたね。ピンク色のメス猫とは珍しい……」


 背後に立つ彼のドスの効いた声に震える。


(このまま走って逃げたらダメかしら?)


 そんな姑息な手段を考えていたアイシャだったが、ゆっくり近づいて来た赤髪の彼に肩を掴まれ、振り向かざるを得なくなった。


 赤髪の彼と目が合う。


 アイシャは最後の勇気を振り絞り眼前の彼を睨みつけた。


(私はアラサーよ! こんな子供に負ける訳ないじゃない!!)


「そっ、その手を離してくださいませ! わたくしが自分の家で何をしていても貴方には関係ありませんでしょ!!」


 アイシャは赤髪の彼の手を振り払い、ガクガクと震える足を叱咤し、背筋を伸ばし歩き出す。この時ばかりはボリュームのあるドレスを着ていて良かったと本気で思った。


 逃げることに精一杯だったアイシャに赤髪の彼の不穏なつぶやきは届かない。


「あれが、アイシャ・リンベル伯爵令嬢ですか。『白き魔女』の末裔。なかなか楽しめそうだ……」




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