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白き魔女の誤算【グレイス視点】※R15

――――アイシャ・リンベル伯爵令嬢。


(あの女はいったい誰なのよ!?)


 ゆったりとした猫脚のバスタブに浸かり左右から美しい下僕達に全身を洗われながら、グレイスは、夜会で見た忌々しい女の事を考えていた。


 信じられない。


 王城での夜会の主役は乙女ゲームのヒロインであるグレイスのはず。


(ノア王太子に手を取られファーストダンスを踊るのは私のはずなのに……、どうしてよ!!)


 グレイスは、バスタブの脇に置かれた香油の瓶をつかむと、怒りにまかせ、投げつける。宙を舞った香油の瓶が、壁へと当たり、耳障りな音をたて割れた。


 破裂音に、下僕の一人がビクッと身体を揺らしたのを見て、さらにグレイスの怒りは増していく。


(どいつも、こいつも……、あぁ、イライラする!)


「この男、いらないわ。排除して」


 グレイスの言葉に、失態を犯した男の顔がみるみると青くなる。


「お、お待ちください。グレイス様、――――」


 グレイスの指示で入ってきた屈強な男に、首根っこを掴まれ引きずられ退室していく下僕を眺め、わずかに溜飲を下げる。


(顔は好みだったのよね。残念だけど、仕方ないわ。代わりはいくらでもいる)


 遠くの方で響いた下僕の叫び声を聞きながら、前世の記憶を呼び起こす。


 あの乙女ゲームの世界には、三人の攻略対象者がいた。


 エイデン王国の王太子、ノア殿下。そして、『白き魔女』の両翼となる知の名門ウェスト侯爵家のリアムと武の名門ナイトレイ侯爵家のキース。


 その三人との出会いイベントでもある王城で開かれるデビュタントの披露目の夜会。


 社交界デビューを果たしたグレイスは、その夜会で、第一攻略対象者であるノア王太子殿下に一目惚れをされ、ファーストダンスに誘われる。


 そして、一回目のダンスが終わり、離れようとしたグレイスを強引に引き留めたノア王太子と二回目のダンスを踊り、グレイスの存在は婚約者のいないノア王太子の想い人として社交界で認知されるようになる。


 しかし、周りの貴族の反応に恐れをなした彼女は、王太子から逃げるようにその場を後にする。


 その場を逃げ出すことに成功したグレイスだったが、王太子との婚約を目論む悪役、アナベル・リンゼン侯爵令嬢とその取り巻き令嬢に、運悪く捕まってしまう。


 夜会の片隅で罵倒されているグレイス。そんな彼女を助けた貴公子がいた。それが、第二の攻略対象者、リアムとの出会いイベントだ。


 第三の攻略対象者キースとの出会いは、夜会から数週間後。息抜きに街に出たグレイスは、悪役令嬢が差し向けた暴漢に襲われそうになっていた所を彼に助けられるのだ。


 そして、三人との仲を深めていく中で、グレイスは『白き魔女』である事を彼らに打ち明け、幼少期から養父に『白き魔女』としての力を酷使されてきた事を話す。そんな彼女に、攻略対象者達が、ナイトレイ侯爵家とウェスト侯爵家は『白き魔女』を護る両翼であり、王家は保護する立場である事を告げる。


 攻略対象者達に背中を押され、養父と戦う決意をするグレイス。そして、最後は養父と手を組んだ悪役令嬢こと、アナベル侯爵令嬢を断罪し、一番好感度が上がった攻略対象者と結婚するハッピーエンドだったはず。


 それなのに、あの女の記憶が一切ない。


――――アイシャ・リンベル伯爵令嬢?


(ヒロインである私の立ち位置にいたあの女はいったい何者なのよ!)


 しかも、一番最後に出会うはずのキース様と二回もダンスを踊り、悪役令嬢のアナベルに罵倒され、それをリアム様に助けられ婚約者宣言。


(なぜ、あの女は攻略対象者三人から求婚されているのよ!? あの場所に居るのはヒロインである私でしょうが!!)


 あの女に対する怒りが、グレイスの中で湧き起こる。


 おさまらない怒りのままに、グレイスは呼び鈴を鳴らし、専属執事のセス・ランバンを呼び出した。


 この男は、奴隷商から買ったグレイスの下僕達とは違い、ランバン子爵家の息子であり、執事とは言え貴族である。黒目黒髪の端麗な容姿が、グレイスの好み、どストライクだったが、貴族であるがために手出しが出来ない。


 自身の痴態と引き換えに、セスを専属執事に欲しいと、変態ドンファン伯爵へ交渉するのが精一杯だった。


(まぁ、セスから私に手を出させればいいだけの事よ。そうなればセスは私のもの……)


「グレイスお嬢さま、お呼びでしょうか?」


 グレイスは下僕の膝の上に跨がり、左右から二人の美丈夫の手によりマッサージという名の愛撫を全身に受けていた。セスが入って来た扉からは、グレイスの秘所が丸見えになっている。


「今夜は王城の夜会で屈辱的な事があって、わたくし、とっても傷ついているのよ。セスに慰めて欲しいのだけどダメかしら?」


 グレイスはセスに見せつける様に、さらに股を広げてみせる。


「その様なご命令はお受け出来ません。グレイスお嬢さまの可愛いペット達なら喜んで慰めてくれると思いますが。そこに居る三人で足りなければ、他の者達も呼び、まぐわればよろしいかと」


 能面の様なセスの顔は、グレイスの痴態を見ても一切変わらず、紡がれる言葉も辛辣だ。


(少しくらい狼狽えてもいいでしょ。あぁ、つまらないわ……)


「冗談よ。ある女の事を調べて欲しいの」


 下僕からバスローブを受け取ると軽く羽織り、セス以外の者達を下がらせる。


「アイシャ・リンベル伯爵令嬢とノア王太子殿下、キース・ナイトレイ侯爵子息、リアム・ウェスト侯爵子息の関係よ。あとは、アイシャとかいう女の情報とリンベル伯爵家の情報を集めて欲しいわ。醜聞や弱味なんかも分かれば上出来ね」


「リンベル伯爵家というと王妃様の妹君が降嫁した家ですね。その関係でか、伯爵家であるにも関わらず、公爵家や侯爵家など高位貴族との繋がりも強いかと思います」


「そう……、他には?」


「アイシャ嬢は、ノア王太子殿下の従兄妹でもありますし、兄君のダニエル様はリアム様と共にノア王太子殿下の側近でもあります。その関係でアイシャ嬢と王太子殿下、リアム様はお知り合いだったのではありませんか。キース様との関係はわかりませんが」


 なんだその華々しい交友関係は!?


 それなのに、記憶の中の乙女ゲームには名前すら出て来ないなんて、意味が分からない。


 ヒロインポジションに突如現れた女。


(気味が悪いわ。私の知らない所で何かが起こり出しているの? 何とかしてあの女を排除する手立てを考えなければならないわね)


「セス、どんな情報でもいいわ。アイシャ・リンベル伯爵令嬢について調べてちょうだい!」


「かしこまりました」


 グレイスはセスが部屋から退出するのを確認すると、呼び鈴を鳴らし、可愛い下僕達とめくるめく官能の世界へ落ちていった。

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