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湖の白鳥  作者: 大石
8/9

声優の闇と光

「ひいっ」

首根っこを捕まれ、芭蕉は肩をすくめる。

「芭蕉くん。逃げる気?」

ひゆの発する声のトーンは。先程より低くなっていた。

「あの・・・服伸びるから放してくれないかな?」

芭蕉がそう訴えると、後ろ襟にかかる引力は無くなった。

ひゆはどんな顔をしているんだろうかと、ビクビクしながらひゆの方を向く。

「監督に色々バラされちゃった」

ひゆは笑顔だった。

しかしそれも先程までの明るい純粋な笑顔ではない。

なにか裏があるような、含みのある、悪意を感じる笑みだった。

ニコニコではなくニヤニヤというべきだろうか。


危険を感じた芭蕉は、とっさに弁解をする。

「別に見損なったとか、ドン引きしたとかじゃないから!!」

もう芭蕉は恐怖のあまり、ひゆの顔を見れずに床を見ていた。

「別に君に裏で悪口言われてても気にしないし、俺なんてどのみちすぐ消えるだろうし!!」

ひゆは何も言わなかった。

どうしたのかと顔を上げる。

「なにビビってんだよ」

ひゆはポケットに手を突っ込みながらドスの効いた声でそう言う。

「君は俺のこと気に入らないんだろ!?こっちには悪意ないんだからほっといてくれよ!」

そう言って今度こそ早歩きでその場から離れる。

「うるせえよ下手くそ!お前なんて声優辞めちまえ!」

後ろから罵声が聞こえてくる。同一人物とは思えない。悪魔が憑依しているようだった。

「濱口ひゆ・・・恐るべしだな」

芭蕉は家に帰ったあとも震えが止まらなかった。



次の日、声優の仕事はオフだった。


アルバイトは1週間前に最終出勤日をむかえたばかりだ。そのアルバイト先でも要領の悪さから無性に居ずらかったので、声優の仕事があろうが長続きはしなかっただろうと芭蕉は思っている。


「ホント・・・社会不適合者だよなあ」

芭蕉は朝からベッドで寝転がりながら、ひたすらスマホを触っていた。

「ん。そういえば給料振り込まれるんだったかな」

どのくらいの額がふりこまれているのかが気になったため、芭蕉は近くの銀行に向かった。


「・・・はっ!?」

通帳の数字を見て唖然とした。

「アルバイト何ヶ月分だよ!!」

思わずATMの前で叫ぶ。

「すいませんあの、ちょっと・・・いいですか?」

話しかけられたため、何かと思うと、中年の主婦らしき人が、眉をひそめていた。芭蕉ではなくATMに用があり、後ろに並んでいたのだ。

「ああ!すいません!」

芭蕉は焦り、ATMから離れる。

家路につくまで通帳をずっと見ていた。

「夢じゃないんだよね・・・」

指で頬をつねる。痛い。現実だ。

「声優ドリームだろ。これ」

宝くじを当てた人間はこんな心理なんだろうなと芭蕉は感じ、周りをキョロキョロ見回しながら通帳を閉じた。


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