表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
湖の白鳥  作者: 大石
6/9

過去のトラウマ

「声優になったきっかけ⋯か」

《一般職に適性がなかったから、消去法で選んだ。成り行きだった》

とは言えなかった。

「昔からアニメが好きでさ・・・」

それっぽい建前を言おうとしたところで、二の句がつげなくなる。

「それでなったんだ」

芭蕉が言う前に助け舟がでるようなかたちで、ひゆが予測して発言する。

「そうそう。好きだったんだ!」


芭蕉は人並みにアニメのことは知っているが、少しマニアックな登場人物になってくると全く分からないし、これまで単行本を買った経験もなかったので、インディス系列の専門学校では疎外感を感じていた。

クラスメイトはみな、アニメの話題で交流を深めていたため芭蕉は明らかに浮いていたのだ。


そんな中で事務所の正規メンバーへの所属。目の敵にされない理由はなかった。


「そうだ。君の事務所は!?」

話題を変えたかった芭蕉は、不自然な声量でひゆに聞いた。

「えっ・・・?【ハーネス】だけど」

ひゆは一瞬、眉をひそめたが、すぐ笑顔になり答えた。

「ハーネス!へえ〜」

芭蕉は知ったかぶりをする。

アニメに疎い人間が、事務所に詳しいわけがない。


「知らないでしょハーネス」

「えっ」

ひゆは見抜いていたようで、不敵な笑みを浮かべる。

「アニメ好きって言ってたけど、どんなアニメが好きなの?なんか芭蕉くん、アニメ好きの人特有の雰囲気がないんだよね」

だからこんなに話しかけてくるのかと芭蕉は推測した。


お前は仲間はずれの匂いがする、とでも思われているのだろう。

芭蕉は正直に言おうと思った。

「いやまああのさ。おれ成り行きでなったというか・・・」

「成り行き?」

ひゆはまじまじと見ながら聞いてくる。


「話、長くなりそうかな」

別の方向から話しかけれられる。しかし至近距離だ。

芭蕉とひゆがそちらを向くと、若い男性がいた。不機嫌そうにしている。

「あ、鳴海くん。おつかれ〜」

ひゆが軽く挨拶をして手を振る。

芭蕉は名前さえ覚えていなかったものの、アフレコ現場にいた顔であることは覚えていた。

「あ、えーと?」

「俺もジュース買いたいんだよね」

芭蕉は自分が自販機へ向かうスペースを塞いでいたことに気づく。

「ああ!ごめんごめん!!」

パントマイムのような動きをしてスペースをあける。

「そんなに焦らなくていいよ。別に急いでないし」

鳴海が無愛想なので、芭蕉はつい気をつかってしまった。

鳴海は自販機で水を購入し、取り出し口の扉を雑に開けて商品をぶん取る。そのあとは特に何か言うことなく帰って行った。


しばらく残った2人の間には沈黙が残った。

誤魔化すためにコーラを飲もうとしたが、中身がもう入っていない。

「ごめんね。彼、いっつもあんな感じなの」

先に喋りだしたのはひゆだった。

どうやら鳴海は、誤解を招きやすいのだという。不器用な性格というやつだろうか。


聞くと彼はひゆと結構共演経験があるらしい。

ひゆが業界に入った段階でバリバリ活躍していたらしい。彼、鳴海は先輩にあたるのだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ