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湖の白鳥  作者: 大石
4/9

白鳥はレッドオーシャンでぷかぷか

「ってなわけ!」

 彼ら3人は公園にいた。


 ベンチに座りながら、芭蕉の幼少時代を竜二は隆一に、まるで武勇伝のように語っていた。

 言った言ってない、やったやってないと言い争っている芭蕉と竜二を、隆一は微笑ましく見ていた。

「そういえば仕事の調子はどうよ」

 竜二は芭蕉に聞く。

 その瞬間、隆一の眉が一瞬上に上がり、口角が引き攣るのが芭蕉にも分かった。


 しかしすぐ元の笑顔になる。

「そっ⋯こいつさ!異世界バーンアウトのタクトになったんだよ!!」

 隆一は自慢げに竜二へ話す。まるで自分の手柄のようだった。

「は!??ラノベの!?」

 竜二は驚く。公園の外にまで響くくらい大きな声だった。


 勘弁して欲しいな、と芭蕉はおもったが、そういえば竜二に報告はしていなかったことも思い出した。


「そーなんだよ。ははは」

「なんなんだろうなー。飄々(ひょうひょう)としてる奴に限って出世してくんだよなー」


 たしかに、芭蕉はこれまでの人生で、声優に対して憧れを持ったことは一度も無かった。

 一般社会に馴染むことが出来なかったから、逃げるようにこの業界に入ってきただけなのだ。

 声優が駄目なら芸人になろうと思っていたぐらい、こだわりはなかった。

 とにかく肩書きがほしかっただけなのだ。

「⋯なんで俺が選ばれたんだろう」

 芭蕉は思わず呟く。本音だった。


 それを聞いた竜二はスマホをポケットから取り出して、Googleで芭蕉の情報を調べながら言った。

「お前って昔から無気力だから目立ってたよな。よく言えばカリスマ性っていうのかなー」

 隆一は首を傾げていたが、芭蕉本人には思い当たる節があった。




 やたら自分だけ怒られる。


 やたら自分だけ目をつけられる。


 そもそもやろうと思ってもできない。


 プールの授業があった際も、芭蕉はやる気が無かった。

 家から浮き輪を持ってきて、皆が必死に泳いでいる最中にひとりぷかぷか浮いていたのだ。


 そんな事をしているから、教師に指摘されるのも時間の問題だった。


 思いっきり笛を吹かれ、浮き輪を没収された──────────




 物欲センサーってあるよなー、とオカルトチックなことを隆一が言う。

 そして溜め息をつきながら、頭の後ろで腕を組み、背仰け反ってベンチの背もたれに背をつける。

「にしてもスゲーな。幼なじみが売れっ子声優になるなんてよ」


 無欲なものに限って手に入る。しかし本当に欲しいものは手に入らない皮肉な人生だ。


「悪目立ちしたんだろうね」

 芭蕉は頭をかく。


 芭蕉の言葉を最後に、気まずい沈黙が流れた。

 竜二はスマホ画面から目を離さない。画面はいつの間にかTwitterになっており、イラストツイートにいいねをしまくって、完全に自分の世界に入っている。

 隆一は唇をモゴモゴ尖らせていき、表情が曇っていく。


「それこそ俺、明日異世界バーンアウトの収録あるから、今日はもう⋯ね」

 口実でなく事実なのだが、嫌味に聞こえているだろうなと思いつつ、申し訳なさそうに芭蕉は小声で言う。


 公園の街灯に設置されている時計の針は、22時を指していた。


 芭蕉のひと言で、雰囲気は一気に解散へ向かった。

 竜二はその後もスマホから目を離さなかった。

 芭蕉が放った最後のひと言で、隆一の顔は完全に歪んでいた。

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