表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うさぎ(いつか)人間を食べる  作者: 春日野霞
6/25

恋するギャル

 朝が来た。

 散歩や通勤のため、たくさんの人が公園を行きかう。



 改めて、どんな奴が食べたいかな。茂みから人々を観察する。

 が、やはり草食動物だからなのか、どれがおいしいのか見当もつかない。人間サマの視点で例えるならば、虫を見たところでどれがおいしいか全く分からない状態だ。



 ただ、私はおいしそうだから人間を食べたいわけではない。憎らしいから食ってやりたいという、感情が先行している。今まで会ってきた人間は、食べたいと思えない理由がはっきりしていた。なんかかわいそうだとか、エサをくれるからとか、うさぎ好きだとか……。

 時間がかかってもいい。気長に吟味すればいいのだ。



 朝更かし(?)に疲れて寝床でうとうとしていると、けだるそうな少女の声が聞こえた。



「え、あれうさぎじゃね?」

「見間違いっしょ」

「ほらあそこ」

 春休みのはずなのに、制服を着ている。めちゃくちゃ着崩しているから、遊びにいくのかもしれない。片方は金髪をくるくると巻いている。もう片方は茶髪のショートを、これもまた巻いていた。

 元ご主人様が嫌いなタイプだ。「ギャル」というやつ。

 したがって、元ペットの私もああいう手合いは苦手である。私はすばやく物影に隠れた。



「え~いないじゃん」

「いやいたし」

「寝ぼけてんでしょ。そんなことよりさあ……」

 ギャルたちは遠ざかっていった。

 また面倒なのに目をつけられてしまったかもしれない。



 しかし!私の可愛さでオトし、にんじん補給係になってくれれば万々歳だ。

 絵描きの少年も、良いにんじん係に育っている。野の草を食べなくとも、毎日満たされていた。

 今日も、あえて何も食べず眠りにつく。空腹状態で食べるにんじんのうまさは格別だからな。



「うさぎさん」

 足音に目覚めると、絵描きの少年がそこにいた。

「今日も、にんじん持ってきたよ」

 待ってました!

 少年は最近、食べている私の様子を描いている。じっと見られるのにはやはり慣れないが、にんじんに没頭することでなんとか気を逸らしている。



「あ、やっぱうさぎいんじゃん」

 食事とお絵かきに没頭していた私たちは、顔を上げた。

 今朝のギャル二人組だった。



 私たちに近づいてくる。少年の絵をのぞきこんだ。

「絵、うまっ」

「ありがとうございます」

 怖がるかと思いきや、余裕で微笑んでいる。

 それどころか、なにやら楽しそうに話し始めた。



「このうさぎいつからいんの?」

「先月くらいからいるみたいなんです」

「へー。野生なんかな」

「多分、飼われてたのが捨てられちゃったんだと思います」

「詳しいじゃん」

「僕うさぎが好きで、毎日描きに来てるんです」

「すご」

 少年は、ちょっと照れて笑う。



「僕、ちょっと前まで入院してたんです。動けるようになったのが嬉しくて……」

 それを聞いて、ショートがハッとした。

「君さ、もしかしてタクマの弟?」

「そうです!なんでわかったんですか?」

 ギャルたちは顔を見合わせた。金髪の方の顔が赤くなってるぞ。

「タクマさー、あんたの話よくしてるんだよ。絵描くのが好きで、入院してる弟がいるってさ。退院したって喜んでたし」

「お兄ちゃん優しいんだ。僕が入院してるときも、ずっと励ましてくれてて」

「分かる!タクマ超絶優しいよね。見た目が怖いから勘違いされてるけどさー。ギャップがめっちゃいいんよね」

 急に金髪のテンションが上がる。それをショートはニヤニヤしながら見ていた。



「このお姉ちゃんさ、タクマのこと好きなんだよ」

「ちょっとアンタ!バラすなよ」

「いいじゃんいいじゃん。弟くんにタクマのこと聞こうよ。誕生日に何あげるか悩んでたっしょ」

 とショートは言うが、金髪は顔を赤くして髪をいじっている。

「チャンスじゃん。聞かんともったいないって」

 金髪はそれでも髪をいじっていたが、開き直ったのか顔を上げた。

「……タクマさ、手作りのお菓子とか好きなかんじ?」



 それから、金髪は怒涛の勢いで質問をし始めた。こんなにキューティーなうさぎさんが目の前にいるというのに、タクマとやらはそんなに良いヤツなのだろうか。

 興味がないので眠っていたが、にんじんのにおいにハッと目覚めた。

「うさぎさん、最後の一本だよ」

 いつもと同じ本数なのに、眠りを挟んだからかお得感がある。ボーナスにんじん。 



「弟くん、明日も来んの?」

「うん。雨でも来るよ」

「うちらも塾の帰りでこんくらいの時間にここ通るからさ、また明日話そうよ」

「いいよ!でも明日は、僕は絵を描きながらでもいいかな」

「全然気にせんからいいよー」

 ちゃんと来るならよし。

 もしギャルに少年をとられたら、怒りでライオンに変身してしまうかもしれない。



「お礼にジュースおごるわ。タクマには内緒な」

「え、ほんと?」

 少年の顔がぱっと輝く。人からうまいものもらえるの、嬉しいよな。

「自販機行こうぜ」

「うん!」

 彼は元気よく返事をした。



「じゃあね、うさぎさん。また明日ね!」

「うさぎに挨拶するとか可愛いなー」

「だって、友達だから」

「そか」

 わいわいと遠ざかっていく。



 太陽が沈んでいく。つまりうさぎにとっての朝なのだが、お腹いっぱいで眠たくなる。

 贅沢朝寝。しかも今日は温かい。しあわせな気分で、眠りに落ちていった。



【本日の人間】

 場合によっては、ギャルを食う可能性がある。

絵を描いている少年は「第4話 絵描きの少年」の登場人物です。こちらもぜひ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ