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うさぎ(いつか)人間を食べる  作者: 春日野霞
10/25

恋が成就したギャル

「あ、うさぎさん、いた!」

 久々に、絵描きの少年がやってくる。私の横で寝ているジョンソンを見つけて、驚いた顔をした。

「えっ、ふ、増えてる!」

 野良うさぎ、増量しました。

「エリカさん、ほら、もう1匹いるよ!」

 興奮する少年の隣には、前にも見たことがある金髪ギャルがいた。

 たしかコイツ、少年の兄ちゃんに恋してるんだよな……。どうなったんだろう。



「ハーイ!ジョンソンでーす!」

 跳び起きたジョンソンは少年にテケテケと駆け寄っていく。

 お前、もうちょっと警戒心持った方がいいと思うぞ。

「あはは、かわいい!」

 とはいえ、相手はよく知っている人間だ。私もいそいそと寝床から出ていく。 



「エリカさん、うさぎさんにお礼するんでしょ」

「うん……」

 金髪ギャルはちょっと顔を赤らめて、カバンからビニール袋を取り出す。

 中に入っているのは、もちろん、にんじん!

 お前もにんじんくれるのか!見直したぞ。



「ナオキが色々教えてくれたおかげで、タクマと付き合えたんだ。で、それうさぎ見つけたのがキッカケだったなって。だからこれ、お礼のにんじん」

 絵描きの少年、ナオキって名前なんだ。

「良かったっすね!僕には何のこっちゃ分かりませんが、嬉しいっす!」

 と私のにんじんに寄っていく。

「コラ!あれは私のだ」

「ええ~いいじゃないっすかあ」

「新しいうさぎさんには、僕があげるよ」

「ありがとうっす!」

 本来あれも、私のにんじんだがな。

 私は寛大だからな、分けてやろう。



 私はギャルの手から、にんじんをもらう。

 彼女の爪は、異様にキラキラしていた。しかも、紫色をしている。体調でも悪いのだろうか。

「……なんか、かわいーじゃん」

 一心に口をもぐもぐさせる私を、ギャルはスマホで写真におさめる。

 ふふん。今さら知ったか。私のかわいさを。

「でしょ!うさぎ、かわいいんだ」

「タクマも、うさぎ好きだもんな」

「お兄ちゃんは、でっかいうさぎが好きなんだ。僕は小さい子がいいけど」

「そか」



「もっとないっすかにんじんー!」

 ジョンソンは少年の手やリュックの辺りをくんくんとにおう。

「あはは!ぶちちゃんはなつっこいね」

 白に黒のぶちだから、ぶちちゃんなのだろう。

「僕ぶちちゃんじゃないっす。ジョンソンっす」

 通じないというのに、ジョンソンは律儀に返事をする。

「いいかもなーうさぎも」

「いいでしょ!」

「家で飼おうかな」

「え?僕をっすか??すみませぇん、実は先約があって……」

「エリカさんち、うさぎ飼うの?!」

 少年は、キラキラした瞳をギャルに向ける。

「いやわからんけど、ペット飼いたいなーって毎週ペットショップに見に行っててさ。犬もいいけど、うさぎもけっこーかわいいなって話してたんだよね」

「僕じゃないんすか……」

 ジョンソンは垂れた耳を一層垂れさせて残念がる。

「エリカさんちでうさぎ飼ったら、見に行っていい?」

「来なよー。飼うことになったら教えるわ」

「うん!」



「そしたらタクマも、うちに来てくれるかもしれないよね」

 誰にも聞こえない声で言ったつもりだろうが、残念だったな。

 うさぎは耳がいいのだ。

 恋が成就してからも、あれしたいこれしたいは尽きないものだな。



「じゃ、私は塾行ってくる」

「うん!またね」

 ギャルは私の頭をくしゃっと撫でると、少年に手を振り去っていった。

「今日は、ぶちちゃんを描こうかな」

「この子、前に言ってた、先輩の絵を描くのが好きな子っすか?」

 私は頷く。

 少年は真剣な眼差しで、ジョンソンを見つめる。

「……そんな目で見られたら、僕、恥ずかしいっす」

「な、落ち着かないだろ。じゃ、私は寝る」

 私は寝床へと帰る。

「ええ~先輩!薄情っすよ~!」

 ジョンソンは私を追いかけてくる。



「あ、行っちゃった」

 逃げたって無駄だ。

 少年は、私の寝床を知っている。

 ドタバタとジョンソンを追いかけ、寝床の方に向かってくる。

「ひええ、なんか怖い!」

 だろ。

 ジョンソンは、別な方へと逃げてしまった。

「また怖がらせちゃったな……」

 少年は申し訳なさそうだった。

「やっぱ、この前の続き描こうっと」

 と、私を見ながら鉛筆を走らせ始めた。



 この役目、後輩にはまだ荷が重いだろう。

 今回ジョンソンが逃げたことにより、次はジョンソンを描きに来てくれることが確約された。おそらくは、二匹分のにんじんを持って。

 ギャルの家でうさぎを飼ったとしても、まだ何回かは来てくれるに違いない。



 初夏の近づく昼下がり。ほどよい温かさに眠たくなる。

 久し振りに、一人で寝る。少しの寂しさはあるが、睡魔には勝てない。

 見られるのは緊張するが、もう慣れてきた。ちょっと成長した自分に酔いながら、私は眠った。

 


【本日の人間】

 ギャルもにんじんをくれ、私に対し感謝をしていたため、食べる候補からは外そう。


金髪ギャルと絵描きの少年の話は「第6話 恋するギャル」で読めます。

あわせてぜひ!

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