その84
「ははあ~ん・・・、島本君が言ったんですね?」
春田部長が即応する。
「え、ええ・・・、まあ・・・。」
私は、そう答えざるを得ない。
まるで告げ口したようで、島本には悪いことをした気持になる。
「彼には、私が何度も言いましたからねぇ~。きっと、それが頭にあったのでしょう。」
春田部長は、何やら嬉しそうに笑いながら言ってくる。
「春田さんは、ご自分から進んでこちらに来られたとか・・・。」
私は、気になっていたことを問う。
「あははは・・・。それも、島本君から?」
「ええ・・・、まあ・・・。」
「男のくせにお喋りな・・・。」
春田部長は、その言葉とは裏腹に、顔はにやにや笑っている。
「仕事は、嫌々しても良い結果は出ない。
そうは思いませんか?」
「ええ・・・、そうなのでしょうね。」
「やりたい仕事であれば、苦労もへっちゃらでしょう?」
「そうですねぇ・・・。」
「だからなんですよ。この国に来ているのは・・・。」
「ん?」
「もちろん、うちの会社は、製品を買ってもらってこそ儲けが出るんですが・・・。
同じ買って頂くにしても、本当に必要とされている方にこそ買ってもらいたいし、使ってもらいたい。
そう思ってるんです。」
「・・・・・・。」
「日本じゃあ、戦後は農業離れが深刻でね。
まぁ、工業立国という政府の方針があるから、ある意味では仕方が無いのかもしれないんだが、私は、それは少し違うんじゃないか・・・。
そう思ってるんです。」
「・・・・・・。」
「だから、国内じゃあ、もうあまり売れない。いや、必要とされていない。
このままだと、これから20年も経てば、日本は自国民が食べる食料を自国で賄えなくなる。」
「・・・・・・。」
「その点、この国の農業はこれからまだまだ成長するし、成長しなければこれだけの国民を支えて行けない。
国土だって日本とは比べものにならないだけの広大さがある。
いずれは、この国が、日本の食糧を支える時代がきっと来るんじゃないか・・・。
そんな気がするんです。」
春田部長は、静かな口調だが、それでも熱の篭った言い方をする。
(つづく)