その83
「み、皆さんに大変お世話になっております・・・。」
私は、とっさにそれだけを言う。
春田部長は、私のことをある程度聞いているに違いないと思ったからだ。
「京都からですって?」
春田部長が手招きしながら言ってくる。
どうやら、どこかへ連れて行こうと考えているらしい。
「ええ・・・。実家があるもので・・・。」
私は、何ともビント外れな答え方をする。
「良いところなんでしょう? 私は、行ったことが無くって・・・。」
「そ、そうですねぇ・・・。ま、住めば都ってことなんでしょうが・・・。」
「ご謙遜を・・・。」
「・・・・・・。」
私は言葉に困った。
京都は「千年の都」と言われる。
歴史的に見れば確かにそうなのだろうが、現実的にそこで日々の生活をしている人間は、あまりそうした意識はない。
それでも、やはり他府県から来た人に言わせると、毎日、そうした歴史の重さを感じるものらしい。
「京都生まれの京都育ちか。良いなあ」と羨ましがられた。
それと同じ意味で、春田部長が言ったのだと思った。
だからこそ、そんな受け答えになった。
「私の父も、京都の大学でしてね。
私が子供の頃は、よく京都の話を聞かされたものでした・・・。
ですから、一度は行ってみたいと・・・。」
私が乗せられてきたジープの座席に腰掛けるようにしながら、春田部長が言ってくる。
「そ、そうだったんですか・・・。」
私も、手で指し示さされたのを受けて、その横に座りながら応ずる。
「ところで、ひとりで旅をなさっているとか・・・。」
「ええ・・・、まあ・・・。」
「どうですか? この国の印象は・・・。」
「う~ん・・・、どことなく、日本に似たような・・・。」
私は、この部分は正直に答える。
「そ、そうですか・・・。日本に似ていると・・・。」
「ええ、風景もそうですし、言葉は通じないんですが、それでも僕には優しく接してくれて・・・。
どことなく、昔の田舎のような温か味があったりして・・・。」
「それは、ひとつには、君が日本人だからですよ。」
「えっ! やはり?」
私は、島本から聞かされた話を思い出していた。
(つづく)