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76/98

その75

「そうした販売ノルマってのがあるんですか?」

私は気になった。

そうであれば、邪魔をしてはいけない。そう思った。


「今の若い人は、何かそうした指標と言うのか、目標と言うのか、そうしたものを与えないと、動けないんですよ。

まあ、同じ年代の君に言う事ではないんだが・・・。」

島本は少し考えるように言う。


「俺なんかは、今日、明日の命を繋ぐことで必死だった。

その連続でやって来た。

だが、戦後の教育、戦後の大学で育った人は、そうした切迫感が無い。

ああ・・・、平和になった・・・。そうした安堵感に支配されている。

そんな気がするんだ。」

「・・・・・・。」

私は、何ひとつ反論できなかった。


私だって、子供心に戦争の思い出は色濃く影を落としている。

少なくとも、自分ではそう思っていた。

それでも、確かに「命の危機」を感じたことは無い。

空腹は覚えても、餓死を意識する事はなかった。

決して旨いものではなかったが、何とか食べることだけは出来ていた。

で、疎開地から実家のあった京都に戻ってからは、学校に復帰した。


京都は殆ど空爆を受けなかった。

もちろん、それがアメリカ軍の意思だったとは知らなかったが・・・。

したがって、実家も何の被害を受けることもなく、昔のまま残っていた。

幸運だと言えば、そうだったのだろう。

学校の校舎も無傷だった。


それからは、私も常に上の学校を目指す事だけを目標に勉強をしてきた。

そして、自分の目指していた大学に合格をした。

その間、挫折というものは殆ど感じなかった。

それも、幸運だったと言うべきなのだろう。


そうした中でのインド旅行だった。


大学を卒業したらどうする?

それが見えていなかったからかもしれない。

自分をある意味で追い込んでみたかったのかもしれない。

新たな目標を見つけるために・・・。



「春田部長と相談の上、彼らにはノルマを科した。

しかし、それは何も彼らの尻を叩くためのものじゃあない。

それでも、そうしたものを与えないと、彼らは楽な道を選択する。

後一押しが出来ないんだ。

頭は良いのだろう。

だが、その良い頭の使い方を知らない。

頭は、帽子を載せる台じゃないんだし・・・。」

島本は、そう言って私の額を指差した。



(つづく)




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