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その69

「だからなのかも知れんな。こうして、世界を相手に日本の技術を誇れる仕事に就きたいと思ったのは・・・。」

島本は、車の揺れに身体を預けるようにして言う。


「じゃあ、大松工業に入られたキッカケは?」

私はその点が気になった。

大松工業は航空機関連の仕事はやっていなかったように思えたからだ。


「あははは・・・、偶然さ。」

「ぐ、偶然?」

「ああ・・・。戦後、本当は学校へ戻りたかった。

勉強を続けたかったしなぁ・・・。

でもな、人間、まずは食うことだ。

名古屋周辺だけに限ったことじゃあなかったんだが、何しろ、食い物が無かった。

曲がりなりにでも学徒勤労動員の間は、軍から何とか食料が与えられていたが、敗戦でそれすらも無くなった。

だから、勉強どころじゃなくなってな・・・。

で、田舎に行っては食料を買い込んで、それを闇市に持って行って売ってた。

もちろん、お袋とだ。

親父は徴兵で大陸から南方戦線に移動したらしいんだが、それからの消息はまったく分からなかったしな・・・。」

「・・・・・・。」

私は、その話に、疎開先の田舎での光景を思い出していた。


ちょっと前までは立派に見えた軍服を着た男たちが、僅かな着物や反物、あるいは骨董品のようなものを持って各農家を回ってきた。

そして、頭を下げて米や芋などの食料品と交換していく。

戦争に負けるってことは、こういうことなんだと重苦しい気持になった。



「で、闇市はお袋に任せて、俺は、あちこちに売りに行った。

爆撃やその後の火事で動けない人達も多かったしな。

そうした人達に食料を売り歩いてた。

と、ある時、大松工業の発動機工場の跡地に立ち寄った。」

「ほう~。」


「もちろん、爆撃されて工場の大半は消失してたんだが、そこには工場を何とか自分たちで再建しようと働く男たちがいた。

焼け焦げたトタンや焼け残った廃材を集めて来ては屋根を作ってた。

そこで、食糧を買ってくれるようになったんだ。」

「・・・・・・。」


「彼らの中には、比較的若い男が何人かいたんだ。

そう、本当ならば徴兵されて戦地へ行ってたんだろうと思えるような年代がだ。」

「ん?」

「理工系の大学生だった。

あの戦争時でもだ、日本の将来を背負うのは理工系の若者だってことは軍の中枢も知っていたんだな。

だから、理工系は学徒動員の対象から外されていたんだ。」

「えっ! そ、そうだったんですか・・・。」

私が初めて聞く話だった。



(つづく)





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