その6
「分かった。そうするよ。」
私はそう答えた。
(う~ん・・・、然るべき人ねぇ・・・。)
正直、私はその点に困った。
まずは、会社の上司を思い浮かべる。
当時は、男の場合、仲人を頼むのは会社の上司が良いという、言わば出世のための暗黙のルールが存在した。
やはり、これから先のことを考えれば、有力な上司に仲人をしてもらえば、社内でそれなりの味方を得ることに繋がったからだ。
確かに、計算高い考え方ではある。
大学時代の私であれば、即座に却下しただろう。
だが、入社して10年にもなったその当時では、それも有力な選択肢として存在した。
やはり、男は仕事をして家族を養っていくのが最大の責務だと思うようになっていたからだ。
そのためには、会社の中でそれなりのポジションを確保する必要があった。
綺麗も汚いもなかった。
それが世の中だと考えるようになっていた。
理想より現実を重視した。
それでもだ。
実際にある特定の人物を選ぶとしたら・・・。
その問いに、なかなか答えが出てこなかった。
私の実家はただただ代々京都に住んでいただけの、言わば京町人である。
私の祖父は京の老舗旅館の番頭を勤めた。
そして、父親は西陣織の会社に勤めるサラリーマンだった。
販売部長という肩書きをもらってはいたが、要はデパートに設けられた販売コーナーの店長だった。
だが、家内の実家は江戸時代から続く和菓子の老舗だった。
格式も相当に高かった。
そのことが私を悩ませた。
私は、思い切ってその夜、両親に「ちょっと相談があるんだけれど・・・」と切り出した。
両親は、薄々だが、私が家内と付き合っていることを知っていた。
それは、いちいち言わなくっても、帰省した私の毎日の行動を見ていれば自然と想像できることだった。
「いよいよ、結婚か?」
父親は、最初にそう言った。
母親は心配そうな顔で黙っていた。
「ああ・・・、そうしたい人ができた。」
私は、そこから話をし始める。
(つづく)