その65
「じゃあ、日本は?」
私は念のために訊く。
「もちろん、イギリスの制度を模倣したんだ。」
島本が答えてくる。
「アメリカじゃなくって?」
「う~ん、戦後の人間は、どうしても外国の影響って言うとアメリカをイメージするんだが、もともと日本が近代化したのは、イギリスやドイツと言ったヨーロッパの諸国の影響が強かったんだ。
だから、国会の制度なんかもイギリスが手本だろ?」
「ああ・・・、なるほど・・・。」
「山沖君も、インドが嫌いじゃないんだろ?
だから、こうした旅の地に選んだんだろ?」
「う、う~ん・・・。た、確かに、嫌いじゃあないですが・・・。」
「好きでもない?」
「う~ん、こっちに来てみて、初めて知ることばかりで・・・。
それこそ、ああ、ここは日本じゃないんだって・・・。」
「あははは・・・。」
島本が笑った。
「そ、それって・・・、今、僕が実感していることですよ。」
佐々岡が言う。
「このふたりにも今教えているところなんだが、インド人っていう国民は、他の国より親日的なんだ。」
島本が噴出してくる汗を拭いながら言う。
「えっ! やっぱり?」
私は、そう問い返す。
何度かそれを実感した事があったからだ。
「な、なんだ? それを感じる事があったってこと?」
「ええ・・・、改めてそう言われるとって・・・。」
「例えば?」
「どこだったか、もう場所は忘れましたが、夜になって泊まる場所が見つからなくって・・・。」
「ホテルって、そうあちこちにはないからなぁ・・・。」
「それで、牛車を引いていた子供に、どこか泊まれる場所を教えて欲しいって頼んだんです。
もちろん、こうしたカードを使ってなんですが・・・。」
「そしたら?」
「日本人なのかって訊くから、そうだと言って、パスポートを見せたんです。
そうしたら、その子、その牛車に乗せてくれたんです。」
「そ、それで?」
「その子の家に泊めてくれたんです。」
「だ、だろ?」
「ん?」
私は、どうしてそう言われるのかが分からなかった。
(つづく)