その61
確かに、私は自分自身で「この会社だ!」と選択をして今の就職先を決めた。
もちろん、その時にも、「この会社に就職できるだろうか?」という不安は殆ど感じなかった。
「何が何でもこの会社に入ってやる!」
そうした思いが強かった。
大学時代に夏休みを含めて5ヶ月ほどインドを旅した。
言葉も習慣もまったく分からないのにだ。
だが、その旅先で、「DAIMATU」というローマ字に出会ったのだ。
いや、その5ヶ月で、唯一日本語が通じる相手と出会ったのだった。
その男たちが、私が入社した「大松工業」から派遣された営業マンだった。
「よっしゃっ!」
その一声に私が反応した。
「に、日本の方なんですか?」
私がそう叫んでいた。
その一言に、私のいろんな思いが籠もっていた。
「ええっ! き、君も日本人?」
彼らも驚いた顔を見せた。
てっきり中国人だと思っていたらしい。
で、この夜、彼らの宿泊しているホテルに泊めて貰った。
いや、「是非とも一緒に食事をしたい」と誘ってくれたのだ。
私は嬉しかった。
勢いで一人旅をしていたものの、ホームシックに罹っていなかったと言えば嘘になるだろう。
だからこそ、彼らが口にした「よっしゃっ!」の一言に反応したのだ。
彼らも、もう2ヶ月日本に帰ってないと言っていた。
これから発展するであろうインドの農村部に、トラクターや耕運機を販売するのが主目的だったようだ。
まだ1ヶ月ほどはインドにいるとのことだった。
何しろ広大な国である。
人口も多いし、農業の近代化もこれからの地域である。
「君の旅の目的は?」
そう訊かれて、私は、正直恥ずかしく思った。
まさか、ふらりと・・・と本音を言う訳には行かなかった。
「それにしても、こんなところで日本人と出会うとはなぁ・・・。」
彼らは、異口同音にそう言った。
敢えて、私の旅の目的を聞き出そうとはしてこなかった。
私は、それを彼らの優しさだと受け取った。
その夜、彼らの部屋で遅くまで「仕事とは・・・」の話を聞かされた。
その一夜の会話が、私に「大松工業」という会社を強く印象付けた。
(つづく)