その60
「何が違うんだ?」
私は、自分に問いかける。
「振られたら、格好が悪いからか?」
「いや、違うんだな・・・。」
「どこが違うんだ?」
「ど、どうしても、あの人と付き合いたい。いや、結婚したい。」
「おいおい、それって、一目惚れだろ?」
「そ、それは・・・、そうかもしれんが・・・。」
「だって、どこの誰かもまだ分かってないんだろ?」
「そ、それは・・・。」
「それなのに、結婚だなんて・・・。どうかしてるぜ。」
「そ、それも、分かっている。」
「だったら、それは、病気だな!」
「びょ、病気?」
「ああ・・・、恋に恋してるって病気だ。お前は、そうした免疫がないからなぁ・・・。」
「め、免疫?」
「ああ・・・、そうだろ? 今まで、まともに女に興味を抱かなかった。」
「そ、そんなことは・・・。」
「確かに、女遊びはしてたわな。独身だという事を良いことに・・・。
それでも、それはあくまでも遊びだ。
罪なことだぜ・・・。」
「・・・・・・。」
「そんなお前が、どうして突然に結婚に目覚めたんだ?」
「ど、どうしてかと言われても・・・。」
「雄として目覚めたか?」
「ん? 雄として?」
「つ、つまりはだ。伴侶を得る必然性に、ある日突然に目覚めたってことだ・・・。」
「伴侶を得る必然性?」
「ああ・・・、雄は、それを感じる瞬間に一皮剥けるって言うからな。」
「一皮?」
「ああ・・・、遊びは一生出来るもんだが、一生の伴侶を得るってのは、その瞬間が勝負だ。
つまりは、そこでの勝敗が、その雄の一生を決める。」
「一生を?」
「ああ・・・、雄は、背負うものが3つある。」
「3つ?」
「ひとつは、一生を捧げる仕事だ。
この選択を間違うと、雄は惨めだぜ。
まあ、その点は、お前はクリアしてるわな。」
「・・・・・・。」
心地良い冷えた風が、舞台の下から吹き上がってくる。
(つづく)