その51
私が毎日八坂詣でを続けたのは言うまでもなかった。
まずは、家内がいつもの場所に座っているかどうかを確かめる。
たまに、交代で休憩をとるようになっているらしく、いつもの場所にいないこともあった。
そうなれば、私は、家内が戻るまで境内を散策するだけになる。
この時期は、境内に繋がる道の両脇には夜店のようなものがたくさん出ていて、結構楽しめたものだった。
ただ、当時の私には、そうした店を覗いて歩くだけの心の余裕は無かった。
そうしたときだった。
いきなり背中を叩かれた。
叩いたのは男だとは分かった。それだけ強い力だった。
「久しぶりだなぁ~、山沖・・・。」
振り返ると、大学時代の悪友、兵頭篤志だった。
漬物屋の息子である。
「おお、兵頭か・・・。」
「な、なんだ? まだ、正月休みなのか?」
「ああ・・・、ちょ、ちょっとな・・・。」
私は、本当の話しは出来なかった。
「今はどうしてるんだ?」
私は、先手を打った。
「時間があるんだったら、その辺で茶でも飲むか?」
兵頭は私の格好を見てそう言った。
私が着物を着ていたからだろう。
で、兵頭に案内されて、甘党喫茶に入る。
「まあまあ、専務さん、いつもお世話になっております。」
兵頭を見た女店主がそう言ってくる。
「専務さんってか・・・。お偉さんなんだ・・・。」
私は、皮肉を込めて言う。
兵頭は、大学を卒業してすぐに父親が経営している会社に入社したから、いずれは父親の後を継ぐつもりだったのだろう。
「名前だけだよ。それより、お前はどうなんだ?
結婚はしないのか?」
兵頭は煙草を取り出して言ってくる。
兵頭は大学を卒業してほぼ1年後ぐらいに結婚をしていた。
大学時代から付き合っていた子とだ。
しかも、もう子供がふたりいた。
(つづく)