その50
高校や大学を選択する。
もちろん、受験で失敗する可能性がまったくないものではなかったが、さほどそうした不安は感じなかった。
ひとつには、自分の学力レベルをよく知っていたからだ。
決して高望みはしなかった。
日頃の自分の努力不足を棚に上げて、理想だけを追い求めるようなことはしなかった。
学校とも本音で相談をした。
親を含めての相談の際には、もう学校と私との間で答えが出ていた。
どちらかと言えば、「安全思考」の選択をしていたと思う。
だが、家内とのことは、そうしたものとはまったく異質だった。
考えてみれば、入試にしろ、入社試験にしろ、「合格者」という成功者は何人もいるのだ。
いずれも何百人という「合格者」が誕生した。
だが、「一生の伴侶」という「合格者」は、たったひとりなのだ。
しかも、事前に「ここだったら、何とか合格するだろう」という感触も得られるものではない。
要は、家内の気持ひとつなのだ。
しかも、その家内は、相当にガードが固い。
必要な事以外の会話はしてこない。
私も、30歳になっていたのだから、決して恋愛経験が無かったものではない。
中学で初恋をし、高校時代には毎年好きな子が出来た。
そして、大学時代には、将来結婚をしても良いかなとまで思える彼女が出来たものだった。
だが、そのいずれもが、そうそう深刻になるほどの深まった関係にまでは進まなかった。
さすがに、大学時代の彼女との別れにはショックを覚えたものだったが、それでもその後の就職で、そうしたことも引きずらないで済んだ。
会社に入ってからは、地方勤務ばかりだった。
親元から離れて何とも気楽な生活だったが、だからと言って、決して女性関係が華やかになることは無かった。
男は仕事だという思いが強くなっていたからかもしれない。
勉強をするという点においては、大学時代のそれより真剣でかつ必死だったかもしれない。
そんな中での家内の出現だった。
それまでに付き合った女性の良いところばかりを足したように思えた。
最初から「この人と結婚をしたい」と思えたのも、それまでには経験のないことだった。
まさに「一目惚れ」なのにだ。
(つづく)