その48
で、早速実家に取って返した。
まさに、天にも昇る気持でだ。
もちろん、その時点で家内と付き合えると確定したものではなかったが、まずはそのアタックチャンスの期間を伸ばすことができた。
それが、無性に嬉しかった。
恐らくは、にやにやした顔をしていたのだろう。
「な、何よ。何か良いことでもあったの?」
家に戻るなり、いきなり母親が言った。
やはり親子である。
私のことをよく見ている。
「ああ・・・、そうだ。」
私は、その母親の言葉に乗っかることにする。
「実は、大学時代の友達とバッタリ会ってね。」
「そ、そうだったの?」
「で、懐かしさのあまり、今週末に一杯飲もうってことになって・・・。」
「ん? 今週末? でも・・・。」
「そ、そうなんだ・・・、だから、有給を取ることにしたんだ。」
私は、もうしばらくは実家にこのままいる理由をそう繕った。
「で、でも・・・、新年早々に・・・、そんなことをしても良いの?」
「ああ・・・、課長に電話入れたら、ゆっくりして来いって・・・。」
私は、そう言った。
心が、ちくりとだけ痛んだ。
人間、ひとつ嘘を付けば、それを正当化するためにまた次の嘘を付く。
誰だったかは忘れたが、確か、そう教えてもらった。
その話を聞いたとき、私にはそんなことは起きないと思った。
その自信もあった。
それでも、それが間違いだったとは思っていない。
その当時の私には、「正当な嘘」だという思いが強くあった。
その時点で、私はいつまで京都にいようとまでは考えてはいなかった。
「予定が分かればま、また電話をくれ」と言ってくれた課長の言葉に甘えようと思っていた。
その一方で、家内が言った「15日までのアルバイト」が強く印象にあった。
つまりは、どう考えても、その15日がリミット、最終期限だということがだ。
で、また、毎日の八坂神社詣でが続いたのだった。
(つづく)