その47
それが、家内と交わした初めての会話である。
「えっ! バイトなんですか?」
私はそう反応した。
まさかアルバイトだとは思わなかったからだ。
それほどまでに、巫女さんの衣装がピッタリ来る。
てっきり本職だと思い込んでいた。
「ええ・・・。この時期だけなんです。」
確か、家内がそう言ったように記憶している。
それでだ。
私は家に急いで帰った。
そして、会社から交付されていた社員手帳と小銭を持って再び外へと出る。
実は、15日まで家内があの八坂神社にいると分ってから、私の頭の中にはある企みが出来上がっていたのだ。
本来ならば、6日からの出勤に間に合うためには明日5日には京都を離れて独身寮に戻らなければならない。
それだと、折角会話が出来た家内との間もこれで終わってしまう。
それはあまりにも切ない、やるせない。
そうした思いがあって、私は「何とかもう数日京都にいられないか?」と考えたのだ。
その結果、閃いたのが「父親が病気になった」という言い訳だった。
その虚偽の言い訳を使って数日間の有給休暇を課長に申し出る。
そのために、公衆電話へと向かったのだった。
まさか、家族がいる自宅からではそんな電話は掛けられない。
現に、父親はその日も元気だった。
で、公衆電話から直属上長の課長の自宅へ電話を入れる。
「ああ、そうか、それは新年早々大変だなぁ・・・。
まあ、君も有給は殆ど取ってなかったんだから、たまには親孝行をしてくれば良い。
で、出社できる見通しが付いたら、改めて電話をくれ。」
課長は自宅で飲んでいたらしく、上機嫌でそう言ってくれた。
「あ、ありがとうございます。ご迷惑をお掛けいたしますが、よろしくお願いを致します。」
私は、罪の意識を持ちつつも、そう言って電話を切った。
「やったぁ~!」
私は、そう叫びたくなる。
独身寮にいると、そうそう休暇も必要がない。
で、毎年、20日の有給休暇を翌年に繰り越していたほどだ。
初めて有効な有給休暇を取得したような気分だった。
(つづく)