その45
「だ、だって・・・、そうでなければ、もう二度とあなたには会えないような気がしたんですもの・・・。」
家内はとうとう下を向いてしまった。
耳朶までが赤くなっているのが分かる。
「ですから、あれは、私にとっては人生最大の賭けだったんです。」
「賭け?」
「ええ・・・。それで、あなたが、そのお約束を守ってくださって、本当にお手紙を下さるかどうか・・・。
下さらなければ、私の勘違いだったと・・・。」
「ん? 勘違い? 僕は、ちゃ、ちゃんと書いたろ?」
「ええ・・・、確かに頂きました。」
「・・・・・・。」
どうしてなのか、家内はそこまでで、話を止めてしまう。
後は、膝の上に置いた両手を見つめるようにしたまま動かない。
「こんな事を言うと、何て少女じみた・・・って思われるかもしれないんですが・・・。」
しばらくの沈黙時間があって、家内は再びその口を開いた。
「そ、そんなことは・・・。」
私も、ほっとしてそう答える。
「私は、いつの頃からだったかは記憶にないんですが、この世の中に、いずれは私の旦那様になられる方が必ずおられるって思ってたんです。
今はまだ私のことをまったくご存知ではなくっても、いずれその時がくれば、どこからか私の前に現れて下さる筈だって。
私よりは年上の方なんだろうし、いずれは私を見つけ出してくださる筈だって・・・。」
「・・・・・・。」
私は、敢えて口を挟まなかった。
「でも・・・、そう信じてはいても・・・、やはり女って、それはいつなんですか?って考えちゃうものなんです。
今もどこかで暮らしておられる。
この同じ空気を吸い、同じ空を毎日ご覧になってる。
学校へ行かれてるのか、それとももうお仕事をされているのか、それすらも分からないんですが・・・。
可笑しいでしょう?」
「い、いや・・・。」
「そう思っていた私に、ちゃんとしたお手紙を下さって・・・。
私、あの最初のお手紙を頂いたときから、“もしかしたら、この方が私が待っていた方?”。
そう思ってしまったんです。」
家内は、そう言ってから、顔を上げてくる。
(つづく)