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その44

「私だって、道端で声を掛けられたことぐらいはあったんですよ。

でも、その男性の顔すらも見ないで逃げるようにして通り過ぎてたんです。

本当に、怖かったんです。

それで、家に帰ったら、すぐに母親に報告してたんです。

今、どこどこでこうして声を掛けられたって・・・。」

家内はそれまでの自分をそう説明する。

20歳になるかならないかの頃なのだろうから、それは決して誇大な言い方ではないだろうと思える。



今の若い人からすれば、殆ど信じられないことなのかもしれない。

ええっ! 20歳にもなって?

そう言われるだろう。

でも、私と家内が出会った昭和40年代半ばの時代では、こうした女の子はまだまだ大勢いた。

当時は、未婚の女性が一人で暮らすことは非常識とされていたし、今のようにネットや携帯電話もない時代である。

それだけ、“時”というものがゆっくりと流れていたのだろう。



「それなのに、あなたにああして声を掛けられたってことは、親に言えなかったんです。」

「・・・・・・。」


「ひとつには、これはお仕事なんだから・・・。そうした思いがあったのかもしれません。

アルバイトと言えども、私にとっては、初めてお給金を貰ってすることでしたから。

それに・・・。」

「それに?」

「少しは、両親から離れてみたいっていう生意気な思いがあったのかもしれません。」

「・・・・・・。」


「両親に、あなたのことを言えば、その翌日からはあなたに会えなくなる。

そう思ったのかもしれません。

だから、言えなかった・・・。」

「そ、そうか、そうだったんだ・・・。」


「そんな気持があったからなんです。」

「ん?」

「あなたから、手紙を書くから住所を教えて欲しいって言われたとき・・・。」

「ああ・・・、そうだったなぁ・・・。」

私は、その当時の事を思い出していた。

ただ、そう鮮明なものではない。


「迷ったんですよ。これでも・・・。」

家内は、唇をきゅっと引き締めるようにして言う。


「教えて良いかどうかを?」

「ええ・・・。でも、あなたもお仕事で京都を離れられるってお聞きしてましたから・・・。

だからなのでしょうね。思い切って・・・。本当に思い切ってなんですよ。」

家内は、当時の自分の心境をそう説明してくる。



(つづく)




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