その43
「それなのに?」
私は、その先を聞きたかった。
「あなたと出会ってしまった・・・。」
家内は、改めて私を見つめるようにしてくる。
「私、最初は、新手のガールハントなんだと思いました。」
しばらくの間があって、家内が話し始める。
「えっ! ガールハント?」
私は、自覚のない言葉に驚きの声をあげた。
“ガールハント”とは、直訳すれば“女の子狩り”である。
今は死語となったが、現代的に言えば“ナンパ”と同義語になる。
つまりは、常識的な男がすることではなく、どちらかと言えばやや不良っぽい男がやることだとのイメージがあったのだ。
もちろん、私にそんなつもりはまったくなかった。
「ですから、本当は怖かったんですよ。」
家内は苦笑しながら言う。
「えっ! こ、怖かった?」
「ええ・・・。だって、私、男性とお付合いをしたこともなかったですし・・・。
それに、あの神社でのアルバイトも、何度も両親に頼んで、ようやっと許してもらったばかりでしたし・・・。
つまりは、それこそ世間知らずでしたから・・・。」
「・・・・・・。」
「やっぱり、両親の言うとおりなんだなぁって・・・、そう思いました。
世の中には、女性であれば誰彼見境なく声を掛けて何とかしようと考える男性が多いんだって言われてましたから。
ですから、例え八坂さんであっても、見知らぬ男性から声を掛けられるようだったら、直ちにアルバイトも辞めさせるからって・・・。」
「そ、そんなぁ・・・。」
「でも、女って面白いですねぇ・・・。」
「ん?」
「私、最初は怖かったんですが、あなたにああして声を掛けられても、それを両親に言えなかったんです。
それまでは、何でも言えたのに・・・です。」
「ど、どうして?」
「それが不思議なんですよね。自分でも、“今日こそは両親に報告しよう”って思いながら帰るんですが、いざ、その両親の顔を見ると、もう何も言えなかったんです。
その時、あなたの顔が思い浮かぶんです。
胸がドキドキしてたんです。」
家内は少し恥ずかしそうにしながらそう言った。
(つづく)