その41
「そ、そうですねぇ・・・、嬉しく思いましたよ。
支店長さんは別としても、先生は実質的なお仲人ですしね。」
家内は感慨深いように言う。
「先生がおられなかったら、私、あなたと結婚できなかったかもしれませんもの。」
家内はそうも付け加えてくる。
「ん? そ、それって・・・。」
私は、その意味を問う。
「今だから、言うんですが・・・。
私、実は、両親が結婚させたいと考えていた相手がいたんです。」
「ええっ! う、嘘だろ?」
「いいえ、これは本当の話です。」
「そ、そんなぁ・・・。」
私は、初めて聞く話に衝撃を覚える。
確かに、家内の両親、とりわけ父親は、時期を見て見合いをさせたいと考えているようだとは聞いていた。
それでも、まさか、特定の人物が浮上していたとは知らなかったのだ。
「うちの家は姉と私。つまり、娘ばかりですからね。
家業の和菓子屋を継ぐ後継者がいないんです。
ですから、父は、私たちが小さい頃から、いずれは養子さんを迎えて・・・と考えていたんです。」
「な、なるほど・・・。」
「でも、以前にも少しお話しましたように、姉があのようなことになりましたからね。
ですから、何が何でも私に婿養子をって・・・。」
「・・・・・・。」
「でも、そう考えていたのは父だけで・・・。」
「えっ! じゃあ、お母さんは?」
「姉のことがありましたからね。母は、迷っていたようです。
私が気に入ればそれでも良いけれど、そうでなければ無理強いしてもと・・・。」
「・・・・・・。」
「そこに、あなたからの毎日届く手紙があったでしょう?
だから、母は、もうそれは諦めようと思ってくれていたようです。
問題は父だけで・・・。」
「う~む・・・。」
私は唸るしかなかった。
「そこに、三浦先生からのお話があって・・・。
ですから、私も、三浦先生の応援がなければ、あなたとの結婚を決断できなかったかもしれません。
やはり、父の気持も痛いほど分かりましたから・・・。」
家内は、そう言ってコーヒーを一口飲んだ。
(つづく)