その40
「あ、はい。ありがとうございます。」
私は即座にそう答える。
実は、もともとは部長に仲人を、そして、主賓として直前の所属だった仙台支店の支店長を考えていたところだった。
それが、突然の正岡支店長の乱入である。
こうなれば、現在の直属部長である田村部長を外す訳にも行かない。
幸いにも、まだ誰にも公式には通知をしていなかったから、部長にそう言われればそれを受けざるを得ない。
単純にそう思っての返答だった。
「そ、そうか・・・、じゃあ、よろしくな。」
部長はご機嫌な顔をした。
これで、支店長にも顔が立つとでも考えたのだろう。
その夜、残業があったにも拘らず、私は家内に「会いたい」と連絡を入れた。
その日は、丁度、家内も大学の研究室で誰かの送別会があるとかで、家にも「遅くなります」と伝えてあったらしい。
で、いつもより2時間遅い午後8時半に落ち合うことにした。
四条寺町の喫茶店だった。
そこからだと、家内の実家までは歩いて10分掛からない。
「知ってたの?」
私は一連の経過を話してから、家内にそう訊ねる。
「ううん、最初は・・・。」
家内はそう言って小さく頭を横に振った。
「さ、最初はって?」
私は、家内の言い方が気になる。
「昨日、お電話を貰ったでしょう? 支店長さんがお仲人をしてくださるって・・・。」
「ああ・・・。」
「私、会社の事ってよく分からないんですが、兎に角、先生にはご一報と思って・・・。
それで、先生にお電話をしたんです。」
「そ、それで?」
「そうしたら、“あら、そうなの”って・・・。
で、“ようやく決心してくださったのね”って・・・。」
「ん? それって、どういう意味?」
「それで、初めて、今、あなたが言われたことと同じようなことを聞かされたんです。
ですから、知ったのは、昨日の夜です。」
「・・・・・・。」
私は、家内の顔をじっと見るだけになる。
「で、どう思った?」
私は、それを聞かされた家内の感想が知りたかった。
(つづく)