その34
「お待たせいたしました。ご案内いたします。」
数分の間があって、先ほどの受付嬢が迎えに来る。
支店長室に案内をしてくれるのだろう。
その応接室を出て、廊下の突き当りまで案内をされる。
受付嬢がノックをする。
そして、中からの返事を待たずして、そのドアを開けた。
「ご案内を致しました。」
「うん。入ってもらってくれ。」
どうやら支店長のようだ。
「どうぞお入りください。」
受付嬢がドアを押さえるようにして、身体を譲る。
「失礼を致します。」
田村部長がそう言って中へと入る。
私は黙ってその後ろを付いて行く。
「おお・・・、待っていた。さ、どうぞ。」
支店長は自分の席に座っていたが、こちらの姿を見るなり、その席を立って応接コーナーへと歩いてくる。
そして、自分の指定席なのだろう。
一際大きな椅子にドンと腰を下ろした。
「失礼を致します。」
部長が低姿勢でそう言う。そして、勧められた椅子に腰を下ろした。
私も黙って追随する。
「営業一課の山沖君だったな?」
支店長が私に視線を向けて言ってくる。
「あ、はい。よろしくお願いいたします。」
私は、今一度立ち上がるようにして頭を下げた。
「まぁ、そう硬くなるな。これはあくまでもプライベートな打合せだ。
もっと気楽にして・・・。」
支店長は、私の頭から足の先までざっと視線を滑らせる。
「それに、どちらかと言えば、私の方からゴリ押ししたようなものだからなぁ。」
支店長はそう言って笑った。
私はそれだけで肩の力が少しは抜けたように思った。
「山沖君からすれば、迷惑だったのかな?」
支店長は煙草を咥えてそう言った。
「い、いえ・・・、とんでもございません。」
私は、そうとしか言えなかった。
本音は別にしてだ。
(つづく)