その26
「それも、三浦先生がお知らせくださって・・・。」
家内が種明かしをするように言う。
「ん?」
私には、その種すらも見つけられない。
「存じ上げていたのは、お母様がご結婚される前のことですから、当然に旧姓の福原菜穂子さんとしてなんですが・・・。
ですから、お母様のお名前だけでは気が付かなかったんです。
でも、さすがに京都のいろんな方面にお顔が広い三浦先生ですね。
同じ門下生だった方ではないかと・・・。」
「へぇ~・・・、広いようで、世間は狭い・・・。」
「そうですねぇ。私も、改めてそう思いました。
あなたのお母様と私の母が同門だっただなんてね・・・。
ですから、これはお電話だけらしいのですが、あなたのお母様と私の母は既に互いに連絡を取らせていただいているようで・・・。」
「ほう・・・。」
私はそう言うしかなかった。
そうしたことがあって、私と家内は、三浦先生のご自宅で略式のお見合いをすることになる。
すべては三浦先生が絵を描いてくださった。
「あなたたちは、もう殆どお返事程度で結構です。
ご両家のご両親には、私の方からお話を致しますからね。
おふたりは、ただ、恥ずかしそうにだけしていて頂ければ・・・。」
最終的な打ち合わせの席で、三浦先生がそう言う。
「はい。」
私と家内はまるで声を揃えたようにそう答えた。
「詳細をご存じないのはご両家のお父様だけですからね・・・。
ただ、御二方共に、それぞれお家の格式を重んじておられますから、その点に傷がつかないようにだけ、細心の注意が必要です。
決して、余計な事は口になさらないように。
そのことは、おふたりのお母様には既に重ねてお願いを致しております。」
三浦先生は、自信たっぷりな表情で言う。
やはり、こうした経験は豊かなのだろう。
「ところで、山沖さん。
お願いしておりました正式な仲人さんは、お決まりになりました?」
先生が私に確認してくる。
「あ、はい。支店長が引き受けて下さることに・・・。」
「まあ、それは上首尾なこと。確か、大阪支店長さんは取締役でもあられたでしょう?」
「ええ・・・、良くご存知で・・・。」
「正岡昭三郎様でございましょう?」
三浦先生は、まるで知り合いの名前でも口にするような言い方をした。
(つづく)