その25
「ええ・・・、ですから、先生が喫茶店に来てくださいって仰ったのは、きっと、その日程のご相談だと・・・。」
家内は、そう明言をする。
私の知らないところで、三浦先生とは緻密な打合せをしているのだろう。
そう思うしかない。
「でも、君のお父さんがどのように仰るかは分からないだろ?」
私は、三浦先生と会うのが、家内の家に行く前になるというのが不安だった。
「う~ん、多分、大丈夫かと・・・。お見合いそのものは、了承すると思います。」
「・・・・・・。」
いくら家内の言葉でも、私は、その点だけは「ああ、そうか」とは頷けない。
家内のお姉さんのこともあるのだし、娘を持つ父親がそう簡単に家内の見合いを了承するとは思えなかったからだ。
「ですから、今度は、あなたのおうちの方にってことで・・・。」
「う~ん、そうなれば良いんだろうけれど・・・。」
「お母様、何か仰いませんでした?」
「ん? 母が? ど、どういうこと?」
「既に、お母様には、水面下でお耳に入れてあると・・・。」
「ん?」
私には、言われていることが分からなかった。
「ですからね、よ~く思い出してみてくださいよ。」
家内がコーヒーを一口飲んで言ってくる。
「な、何を?」
私はとうとう煙草を取り出した。
吸わなければ、頭が回らないように思えた。
「良いです? あなたのお母様もお華をなされてたんでしょう?」
「う、うん・・・。もう、随分と昔らしいけれど・・・。」
辞めた理由は聞いていないが、確かに、私の母親も昔は華道の師範をしていたらしい。
「何流でした?」
「た、確か・・・、双華流だったと・・・。」
「でしょう?」
「ん?」
「私の母も、同じ双華流なんですよ。」
「あぁ、そうか・・・。だ、だったら・・・、ま、まさか・・・。」
「はい、そのまさかです。
うちの母は、あなたのお母様を存じ上げていたんです。
双華流家元である菊池玉枝先生の同じ門下生として・・・。」
「ええっ! ・・・。」
私は、開いた口が閉じられなかった。
(つづく)