その23
「そ、それで?」
私は、その先を急ぎたくなる。
「それでって?」
家内は、何を聞きたいの?という顔をする。
そして、私の顔をじっと見るようにして、言葉を繋いでくる。
「ただ、それだけですよ・・・。
要は、私の両親に、“私の知り合いに、こんな人がいるんですけれど、留美さんにどうかって”。
そういうお話を持ってきていただくんです。」
「つ、つまりは、紹介をするってこと?」
「ええ・・・。形式的には・・・。」
「形式的?」
「だから、言ってるでしょう?
うちの両親は、そうした形式を重んじるんだって・・・。
年頃の娘が、“好きな人ができたから結婚したいの”ってのを許さないんです。
“そんなふしだらな・・・”って。」
「ふ、ふしだら!?」
家内が慌てて、自分の唇に指を押し当てる。
そんな大声を出すなという意味だ。
「古いんです。昔気質なんです。
でも、そうした意識があるから、今のお店をああして続けていられるんだとも思います。
何と言っても、伝統の重みが左右する世界ですから・・・。」
「・・・・・・。」
「先生は、うちの母親とは知り合いなんです。」
「ええっ! そ、そうなの?」
「先生は日舞の藤巻流、母は華道の双華流とその世界は違いますけれど、元は同じ京都女子師範学校の同級生でもありますし・・・。」
「ど、同級生・・・。」
「ええ・・・。ですから、母も、三浦先生のところならばと、私に踊りを習わせてくれたんです。」
「そ、そうか・・・。そうだったんだ・・・。」
私は、歌舞練場で会った三浦先生を思い出す。
そして、そのイメージから、家内の母親を想像する。
同じような雰囲気なのだろうと勝手に思っただけなのだが・・・。
「そこまで言えば、形式的ってことも、その意味が分かるでしょう?」
家内は、まるでクイズのヒントを出したような言い方をする。
「ん?」
私は、それでも、その答えが見つけられない。
(つづく)