その18
「ど、どういうこと?」
私は執拗に問う。
「あの三浦先生は、藤巻流の重鎮と言われる方でね。
京都ではちょっとばかり有名な方なの。」
家内が廊下を歩きながら説明をする。
「そ、それで?」
「私から、お願いをしてみたの。」
「な、何を?」
「・・・・・・。」
「まだ時間があるから、ちょっと座りましょうか。
煙草、吸うでしょう?」
ロビーのようなところに出たところで、家内が言う。
そして、そこにあった縁台のよう長椅子に腰を下ろした。
赤い毛氈が敷かれてあった。
私も家内の横に腰を下ろす。
そして、言われるままに煙草を咥えた。
「あの先生だったら、うちの両親もよく知っているし・・・。」
「ん? と、言うことは?」
「そう、先生は、あなたとの結婚を応援してくださるって・・・。」
「・・・・・・。」
私の背筋に衝撃が走った。
それで、声も出なかった。
煙草の煙が、肺ではなく、まるで心臓に流れ込んだように感じた。
「先生、もう何人ものお弟子さんの間を取り持っておられてね。」
「じゃ、じゃあ、仲人をってこと?」
「ううん、お仲人はされないの。先生、御独りですもの。」
「・・・・・・。」
「でも、踊りは、妖艶さもなければ駄目なのって仰って・・・。」
「妖艶さ?」
「簡単に言えば、色気?」
「・・・・・・。」
「女は、やはり結婚してこそ、その色気が身に付くものだからって・・・。
で、これはと思う人を見つけてきては、その間を・・・。」
「ヘェ~、そうなんだ・・・。」
私は、名刺交換をしたときの先生の顔を思い浮かべる。
「だから、仰ってたでしょう? 隅に置けないのねって・・・。」
「ん?」
「先生、いずれ、私にも良い人を見つけてあげるからって言って下さってて・・・。」
「ああ・・・、それで・・・。」
私は、何とか話の流れが飲み込めてくる。
(つづく)