その13
「う~ぬ・・・。」
私は腕組をする。物を考えるときの癖だ。
自分では意識はしていなかったが、どうやら大学時代からそうした癖が身についてしまったらしい。
今では、会社でも有名になった。
また、あいつが何かを考えているんだと・・。
向いの席に座っていた家内がくすっと笑う。
「ん? 何か、可笑しい?」
「い、いえ・・・。」
「まるで、堂々巡りをしているようで・・・。」
私は、頭の中の状況をそのように実況中継する。
家内は、自分は了承しているから、間に然るべき人を立てて、正式に申し込んで欲しいと言う。
それはそれで、私も理解できる。
ご両親、とりわけ昔気質の父親の了承を取り付けるには、そうした手順が必要なのだと言うことなのだろう。
ところが、その話を実家の両親にすると、順序が違う、先にその娘さんを連れて来いと言う。
会ったことも無い娘の家に、人を立ててまで縁談の申し入れなとできはしないと言うのだ。
これはこれで、親としての立場は理解できる。
「私が先にご挨拶に行くのが筋なのかもしれません。
お嫁に貰っていただくのは私のほうなんですから・・・。」
「い、いや・・・、そ、そういう意味で言ってるんじゃなくって・・・。」
正直、私には、そうした「貰ってやる」なんていう感覚はなかったから、家内の言い方には驚きを覚えた。
「でも、お父さんは、それを絶対に許さない人なんです。
いえ、お母さんも、それは駄目だと言うだろうと・・・。」
「・・・・・・。」
「実は、私にはお姉ちゃんがいたんです。」
「ん?」
「そ、そうなんです。過去形なんです。」
「と、言うことは・・・。」
「はい。死んでしまいました。」
「・・・・・・。」
私は、「どうして?」とは訊けなかった。
「お姉ちゃんには、好きな人がいたんですが・・・。
その相手のご両親から結婚を猛反対されたんです。」
「・・・・・・。」
「それで、ふたりして駆け落ちをしたんです。」
「駆け落ち!?」
私は、不幸な結末を予感した。
(つづく)