その11
「如何に文通のお友達、ペンフレンドだと言っても、あれだけ毎日お手紙を頂くと、それは単なるお友達とは思えなくなるのでしょうね。
実際、郵便受けからあなたからのお手紙を取り出すのは、お母さんだったし・・・。」
家内は照れるのか、声を落として話してくる。
「・・・・・・。」
私は、その光景を想像するしかなかった。
「私はとても嬉しかったし、毎日、学校から帰るのが楽しみだった。
帰ったら、私の部屋の机の上に、あなたからのお手紙が真ん中に乗せられていたんですもの。
そう思うだけで、毎日、急ぎ足で帰ってきてた。」
「・・・・・・。」
「それが、毎日ですよ。
もちろん、お母さんは中身を知りません。勝手に開封なんてしませんから。
でも・・・、でもね・・・。
母親って、娘にそうした手紙が毎日送られてくれば、それは、その相手は、娘の意中の人って思うんだと・・・。
そうでなければ、私が黙ってはいないだろうと・・・。
“こんな手紙が毎日来るのよ”って相談をしただろうと・・・。」
「な、なるほど・・・。」
私も、娘を持った母親とはそんなものなのだろうと言う感覚は理解できた。
「で、お母さんは、あなたのことをある程度は知っているようなんです。」
「えっ! ・・・知ってる? 僕のことを?」
私は仰天する。
まだ、家内の母親とは会ったことがない。
「あなたの性格なんですよね。
お手紙を下さる封筒に、あなたの住所がきちんと書かれてあって・・・。
会社名と独身寮の名前までも・・・。」
「う、うん・・・。」
私は、どうしてそのことに触れられるのか、さっぱり分からなかった。
「そうなれば、まるであなたのお名刺を頂いたのと同じなんですよ。
お母さんにすれば・・・。」
「ん?」
「つまり、この会社に勤めていますって申告したようなものでしょう?」
「ああ・・・、な、なるほど・・・。」
「だったら、後は簡単なことでしょう?」
「ん?」
「お母さん、あなたが勤めておられる会社の人事部に電話を掛けたようなんです。」
「ええっっっ! ど、どうして?」
「縁談の関係で・・・と。」
「ああ・・・、そ、そうか・・・。」
私は、ようやっと、あることに辿り着いた。
(つづく)