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ピュアホワイト  作者: 仁科 すばる
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四章 だから、来世はそばにいて(1)

 まつりさんからのお土産が届いたのは、事前に伝えられていた通り水曜日の夜だった。宅急便の最終配達時刻である二十一時の手前に、汗だくの配達員さんが部屋のチャイムを鳴らす。受け取った荷物はずっしりとした重みがあった。

 足取り軽くリビングへと戻り、意気揚々と包み紙を外していくと、質の良い桐箱が現れる。滑らかな手触りだ。まつりさんがSNSに投稿していた酒造の写真から、かなり期待を膨らませていたにもかかわらず、抱いた期待を大幅に上回る予感がする。日本酒の良し悪しを見分ける力量は持ち合わせていないが、桐箱の手触りだけで良い品だと確信した。実家の父が給料日のご褒美に少しだけ奮発して購入するスーパーの日本酒など、比べるに値しないのだろう。

 日本酒がぴったりと収められた桐箱には、酒造名が刻印されている。日本酒の瓶は白くて薄い緩衝材のようなものに包まれていて、花嫁のベールを彷彿とさせた。

 チャットで送られてきたまつりさんのメッセージによると、五年熟成された品でフルーツのような甘い香りがするらしい。ワインのような説明だと思うと同時に、どんな味がするのかと期待はますます膨らんだ。わたしの知っている日本酒は決してフルーティーではなく、独特の嫌な臭いが強く感じる。本当に美味しい日本酒を知ることで、そのイメージを払拭することができそうだ。

 カーペットの上に転がり、日本酒をより楽しむためのサイトを検索する。インターネットとは便利なもので、さまざまなまとめサイトや酒造メーカーが、こぞって美味しい飲み方を紹介していた。

 どんなものと合わせて飲もうか。

 せっかくならば、お猪口も良いものを用意してみたい。

 日本酒は酔いやすいと言うけれど、飲みすぎたら翌日に響いてしまうのだろうか。

 それなら、飲むのは金曜日か土曜日のほうがいいかもしれない。

 ゼンマイ仕掛けのおもちゃのように跳ね起きて、スマートフォンに手を伸ばす。律が実家で飼っていたという犬のアイコンをタップすると、アジフライを頬張るわたしたちが現れた。梓がまつりさんに見せた写真を思いがけなく気に入った結果、見事わたしのチャットの背景に起用された。このときはまだ、ここまで長い間そばにいることができるなんて、これっぽっちも予想していなかった。

『今週は日曜日じゃなくて、土曜日に集まろうよ!』

 ほどなくして既読がつき、すぐさま返事が返ってくる。

『いいけどどうした? オレの家?』

『まつりさんから日本酒届いたから、さっそく飲みたいの。律の家でもいい?』

 オーケーマークを背負ったクマのスタンプが送信され、『なにか用意しておく?』と追随する。

『いるものはわたしが全部用意しておくよ。調べてたら楽しくなっちゃって』

『それなら真白のセンスに任せるよ』

『酔ったら泊まっていってもいい? 次の日は日曜日だし』

『泊って行けばいいよ。真白のぶんのタオルケット、押し入れから出しとく』

『よろしく頼んだ』

 画面と日本酒とを交互に見て、わくわくが込み上げてくる。もしかすると、酔いつぶれて今週のクジ引きはお休みになるかもしれないなぁ……、なんてことを頭の片隅に追いやって、鼻歌交じりに日本酒のアテ探しを再開 した。

 明日の仕事帰りにお猪口を買いに行こうとか、ワインのような印象ならグラスの方がいいのかなとか。そんなことを考えるのは、夏休みの計画を立てるのと同様の楽しさがあった。非日常のわくわく感。大人になって、久しく味わっていなかった高揚。もしかすると、これをきっかけにして日本酒にハマってしまうかもしれない。

 インターネット検索を繰り返すうちに、今回だけでなく、先の候補まで出来上がってしまった。日曜ボックスに宅飲みのクジを増やしておこう。

 そんな決意を胸に、眠りについた。



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