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5 お見舞い

「君は勘違いしてるようだけど、私は外面がいいだけで本当はしっかりなんてしていない。その……許されるなら……甘えたい……タイプだ」


 彼は少し恥ずかしそうに、頬を染めてそう言った。ラファエル様が甘えたいタイプ?そんな風に全然見えない。


「外面がいいなんて貴族としては素晴らしいですわ。外面を整えるのは大変ですから。ふふ、それにラファエル様に甘えたところなんてないじゃありませんか?」


 私はくすりと笑ってしまった。


「必死に頑張ってるのさ。格好悪い姿を見られないようにね」


 なるほど。確かにこれだけ目立つということは、一挙一動が注目されている。少しのミスも許されないなんて……ラファエル様も不憫だわ。私なら絶対に耐えられない。


「じゃあ、私の前では頑張らなくてもいいですよ。ラファエル様は毎日色んなことを努力して、周囲に気を遣っていらっしゃるから疲れるでしょう」


「いや、でも……」


「たまには気を抜いてもいいじゃありませんか?私なんて爵位も下で年下ですし、気を遣う必要もありません。自然になさってください」


 彼は無言のまま深く俯いてしまった。あれ?なんか変なこと言ったかしら?あー……私なんかに偉そうにそんなこと言われたら嫌よね。


「もちろん、見聞きしたことは他言はしませんから!あ……でもラファエル様と同じくらい凄いレベルの人じゃないと気を抜けないですよね!私ったら何言ってるんですかね」


 誤魔化すようにハハハ、と笑ってその場を誤魔化そうとした。すると俯いていた彼が少しだけ顔を上げ、窺うようにチラリとこちらを見た。


「……いいのか?」


「え?」


 消えてしまうような声で彼が何かを話した。いつもしっかりハキハキ話す彼にしては珍しい。


「……ありがとう。いつも周囲から求められる完璧な自分であろうとしてしまう。本当の自分を見せて、ガッカリされたらと不安なんだ」


「少しくらい隙があるほうが、親しみがあっていいですよ。少なくとも私は完璧じゃないラファエル様の方が話しやすいし、良いと思いますわ」


 私はニコリと微笑んだ。普段の彼は確かにとてもスマートで素敵だが、完璧すぎて人間味がない。だって向こうが完璧だとこっちも緊張してないといけないから疲れてしまう。


 あとたった二回とはいえ、また会わねばならないのであればリラックスして会いたい。


「じゃあ……君に甘えてもいい?」


 ラファエル様は口元を手でおさえて、頬を染めて呟いた。恥ずかしいのか少し目が潤んで可愛らしい。ラファエル様に可愛いだなんて表現は……適切ではないと思うけれど。でも実際には彼が私に甘えるなんか想像つかない。


 でも私くらいの女の方が気兼ねなくて気分転換ができて、たまに話すのはいいのかもしれないわね。彼の本物の奥様になる人はきっと、同じように完璧な御令嬢なのだから。


「私なんかで良ければどうぞ」


 あと何度かしか会わないでしょうけれど。


「……ありがとう。名残惜しいけれど、今日はもう帰ろうか?足も心配だしね」


 彼はまた私をふわりと抱き上げて、そのまま馬車に乗せてくれた。甘えるなんて言っていた彼は、いつも通りで……私の方が甲斐甲斐しくお世話をされて甘やかされているのは結局こちらだった。


 ほら、やっぱりしっかりしていらっしゃる。さっき庇護欲がそそられたのは勘違いだわ。


 そしてお父様には黙っていようと思っていたのに、ラファエル様が「怪我をさせたことを説明しないわけにはいかない!」なんて言い出して……結局全てバレた。


 ラファエル様は「大事な娘さんに怪我をさせて申し訳ありません」と頭を下げて謝ってくださったが、私が全て悪いのだ。侍女のジャンヌにも「お嬢様を助けてくださったのはラファエル様です」と口添えをしてもらった。


 お父様からもラファエル様にお礼を言ってもらい……マッチングデートの一回目は終わった。


 はあ……、なんか結局ラファエル様に迷惑をかけただけだった。またデートして欲しいなんて言われたけど……でもこれだけ迷惑をかけたのだから、きっと私に呆れたよね?もう二回目はなしで、マッチングは解消になるだろう!きっとそうだ!


 もう疲れたから難しいことを考えるのはやめて、お風呂に入ってすぐに何も考えずに布団に潜り込みぐーぐーと寝てしまった。



♢♢♢



「お嬢様っ!お嬢様っ!起きてくださいませ」


「んーっ、ジャンヌ……私は昨日出かけて疲れてて……まだ寝かせてよ……」


 いつも私が起きてくるまで、ゆっくり寝かせてくれるのに。しかもまだ時間早くない?眠たいからもう少し……お願い。


「ラファエル様が来られています!」


 その一言に驚いて私は飛び起きた。一気に眠気なんて吹っ飛んでいった。


「はぁ!?」


()()()ラファエル様が来られているんです。急いで支度をしますから、下に降りてくださいませ」


 ジャンヌに急かされて、顔を洗ってなんとか鏡の前に座りドレスに着替えてヘアセットとお化粧をしてもらった。


「なんでラファエル様が来るのよ?昨日会ったばかりよ」


「……足のお見舞いだと仰っていました」


「お見舞い!?そんなの昨日の今日で治るわけないじゃない」


 ラファエル様は一体何を考えているの?意味がわかりません。しかもこんな朝早く……非常識じゃないの!


「わかりませんが、無視するわけにもいきません。アランブール公爵家の方が爵位が上ですし、今はお嬢様のお見合い相手ですから」


「お見合い相手って……仮よ!仮!!」


「ラファエル様に仮なんて失礼ですよ」


 ジャンヌに顔を顰められたが、私はぶんぶんと左右に首を振った。


「何言ってるのよ!ラファエル様だからこそです。私とお見合いなんてしてるとわかったら、彼の汚点よ。だから仮なの」


 そう言うと、彼女はさらに眉を顰めた。


「汚点なんてことはありません。お嬢様は素敵な御令嬢ですから」


「ありがとう。嘘でも嬉しいわ」


 ジャンヌはいつでも私の味方をしてくれる。地味な見た目の私を褒めてくれるのは、家族とジャンヌだけだ。


 私はリビングに降りると、ラファエル様が客間に座ってお待ちになっていた。


「ロザリー嬢!おはよう。朝早くからすまない……どうしても心配で仕事前にお見舞いをと思って」


 彼は私を見ると立ち上がって、嬉しそうに微笑んだ。手には真っ赤な薔薇の花束を持っている。


 うわっ……眩しい。美しいブロンドの髪が朝日で煌めいてる。起きてすぐこのキラキラオーラを浴びるのは辛い。花束がこんなに似合う男性はそうそういないだろう。


「足の具合はどうだい?」


 ――どうも何も痛い。当たり前だ。


「少し痛いですけれど、大丈夫ですわ。かすり傷ですからお見舞いなんて大袈裟です。ラファエル様の大切なお時間をいただくなんて……申し訳ないわ」


 もう来なくていいですからねー、と遠回しに伝える。


「……私が来たかったんだ。ああ、これはお見舞いに」


「まあ、綺麗ですわ。ありがとうございます」


 私は薔薇の花束を受け取った……が、絶対にこの華やかな花束は私よりラファエル様の方が似合うので、そのまま返したいくらいだ。


 そして彼の後ろに積んである沢山の箱に私は冷や汗をかいた。もしかして……これ全部お見舞いとか言わないわよね!?


「ロザリー、ラファエル様が……その……沢山のお見舞いをくださったんだ」


 お父様は苦笑いをしている。私もなんとか笑顔を作って彼にお礼を述べた。


「お心遣いいただき、ありがとうございます」


「安静にしてくれ。ああ、残念だが……もう仕事に行かねばならない。失礼するよ」


 結局何のために彼が来たのかわからなかった。だが、とりあえず玄関まで見送る。


「お忙しいのに、来ていただき申し訳ありません。お仕事ご無理なさらないようになさってくださいね。行ってらっしゃいませ」


 私がそう言うと、彼は玄関に立ったままボーっと固まっていた。


「ラファエル様?ラファエル様!大丈夫ですか?」


 私は動かない彼が心配になり、トントンと肩を叩いた。ラファエル様はハッと正気に戻った。


「ああ、すまない。大丈夫だよ。い、いってきます」


 彼の顔が少し赤い。もしかして体調が良くないのではないだろうか……?


 扉を開けた瞬間、門の前にとまっているラファエル様の愛馬が見えた。私はその光景を見てサーっと青ざめる。


 そして彼の肩をガシッと掴み、私は低い声を出した。彼の馬を我が家に繋いでおくなんて……目立ってしょうがないではないか。信じられない!


「ラファエル様!二度と我が家に王家の馬車以外で来ないでくださいませ」


「……え?」


「あなたが我が家にいると知られたくないのです。目立つことはお控えください!」


 驚いている彼に一方的にペコリと頭を下げて、玄関の扉をバタンと強めに閉めて中に入った。



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