26 結ばれた縁
ラフに好きだ、可愛い、愛してる……を何度も何度も繰り返し言われながら彼の甘く大きな愛を受け止めた。
「ラフ……ラフ……愛してる」
「ロージー愛してるよ」
ぼんやりした意識の中で見たラフは、汗をかいた前髪をかきあげていた。ああ……そんな姿もやっぱり男前だなぁなんて思っていると、急に彼がふわりと笑った。
「幸せすぎて……夢みたいだ」
その笑顔が本当に綺麗で、私も嬉しくなった。返事をしたいのに上手く声が出ず、そのままゆっくりと眠りについた。
♢♢♢
目が覚めたら、ラフの彫刻のように美しい顔が至近距離にあって思わず大きな声を上げそうになった。
そうだ、昨夜は一緒に過ごしたんだった。思い出しただけで、叫び出したいくらい恥ずかしい。
でもこうして見ると、あの時の色気ムンムンの男っぽい彼とは別人のようだ。今隣でスヤスヤと寝ているラフはいつも通り爽やかな王子様のようだ。この人があんな顔をしていたなんて、なんだか信じられない。
「……好き」
私は小さくそう呟いて、ラフの唇にチュッと軽く触れた。きゃー!私からキスしちゃった。なんて一人で浮かれていると、ぐんと強く手を引かれて彼の腕の中に強引に抱き締められた。
「愛する奥さん、おはよう。こんな可愛い起こし方どこで覚えたんだい?」
ラフは私の顔中にチュッチュッチュッとキスをした。まさか起こしちゃうなんて。
「お……はよう……ございます」
やっぱり彼を見ると、どうしても昨夜の記憶が想い出されてポッと頬が染まってしまう。
「今日は二人でゆっくりしよう」
それからのラフはそれはそれは甲斐甲斐しく私のお世話をして、まるでお姫様扱いだった。彼はアランとソフィに若干呆れられながらも「いいんだ!私が全てする」と決して譲らなかった。
そして本当に嬉しそうにニコニコと私の顔を見つめて笑っている。
「あ、あの……私を見ていて楽しいですか?」
「ああ、すごく幸せだ。可愛いし。夢じゃないんだなって実感する。君は可愛くて、可愛くて可愛いから」
どうしよう、ラフは頭のネジが何本か取れてしまったのかもしれない。なんだか『可愛い』が多すぎる。
そして定期的に私に後ろからくっついてすりすりと甘えるような仕草をするのだ。なんだかあざとい。
「ラフがこんなに甘えん坊だなんて知りませんでした」
「だってロージーが言ったんだよ?甘えてくれる男が好きだって。だから君の前では格好良いはやめて素直に甘えることにした」
そう言いながらも、低く響く声は色っぽくもあって……それがアンバランスで困る。
「またロージーの手作りお菓子が食べたい。今度作ってくれる?あれは美味しかったな」
それはもしかして、私が一回目のデートで作った激甘マフィンのことだろうか?あの時は甘い物が苦手だと思っていたので完全に嫌がらせだった。実は彼が甘い物を好きだったから良かったけれど。今考えると我ながら酷すぎる計画だわ。
でも今さら真実を言えないし……なんだか申し訳なくなった。
「いつでも何でも作ります!」
せめてもの罪滅ぼしにそう言うと、彼はめちゃくちゃ喜んでいてズキズキと良心が痛む。この秘密は墓場まで持っていきますからね。
「……そう言えば、マフィンを渡した時ラフは涙目で震えていませんでしたか?あれはどうしてですか?」
ずっと不思議だったことを聞くことにした。そんな反応だったから、私も嫌いだと勘違いしたのだ。
「それは……長年片想いしていた君の手作りだなんて感動してしまって」
彼は恥ずかしそうに頬を染めた。手作りに……感動……?私は驚いて目を見開いた。
――な、なんて純粋な!
さらに良心が痛んで、今度絶対に彼のためだけに愛情たっぷりのお菓子を作ることを決意した。
私がマッチングに申し込んだことから始まったこの不思議な恋。
『今回は縁がなかったということで』
そう言って逃げようと何度もしたのに、彼からは決して逃れられなかった。思えばラフに出逢ってから私の人生は激変したものだ。
まさかあの自信がなくて、人目を避けて生きてきた私が歌姫になって彼の奥さんになるだなんて。きっとあの頃の私に言ったら信じないだろうな。
「……私とラフはきっと縁があったのね」
そう言った私を彼は不思議そうに見ていたが、すぐにニッコリと微笑んだ。
「そりゃそうだ。私と君はお互い運命の相手に決まってる。きっと前世でも結ばれていただろうし、来世でも出逢えるはずさ」
自信満々にそんな壮大なことを言い張るラフに、くすりと笑い「愛してる」とキスをした。
「今日は我慢しようとしていたのに、奥さんが可愛すぎてどうやら無理そうだ」
「ええっ!?」
「愛を伝えるのに言葉だけでは足りなくてね。私にたっぷり甘えていいから、私も甘えさせて」
そしてまた蕩けるように彼に愛されて、困ってしまう。困ってしまうと言いながら、内心喜んでいる私は……きっととても幸せだ。
『君と結婚すれば、きっと子宝に恵まれ幸せな家庭が築け仕事も上手くいくだろう』
これはマッチングで初めて会った時に、ラフに言われたことだ。
この発言が嘘ではなく事実だったことを、生涯かけて二人で証明していきたい。きっと彼とならば、その通りの幸せな未来が待っているから。
初めの投稿より話をカットしています。
これで最終話になります。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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