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【電子書籍化】今回はご縁がなかったということで  作者: 大森 樹


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25 甘い夜

 着いたのは公爵家の別宅だ。お義父様達が暮らされている本宅の近くにある家で、別宅とはいえすごい広さだ。


「お帰りなさいませ。若旦那様、若奥様」


 そうか……今日から若奥様なんだ。慣れない呼ばれ方に恥ずかしさとむず痒さを感じる。そしてビシッと並んだ使用人達に驚いてしまうが、彼は慣れているようで「戻った」と言いながら長い足でスタスタと廊下を通り抜けた。


「紹介しよう。私の愛する妻ロザリーだ。彼女のことは私と同等に扱うように。皆、よろしく頼む」


 ラフが紹介してくれたので、私もみなさんの前でご挨拶をする。


「初めまして、ロザリーと申します。不慣れなことが多いですが皆さん助けてくださいませ」


 ペコリと頭を下げると、みんなが拍手をしてくれた。温かく迎えていただいているようで安心した。


「もう紹介しなくても知っていると思うが、執事のアランだ。私がいない時に何か困ったら何でもアランに聞いてくれ。彼が一番この家のことを知っている」


「若奥様、よろしくお願い致します」


「こちらこそよろしくお願い致します」


 そして、ラフはもう一人侍女をつけると紹介してくれた。


「基本的にはジャンヌに君の侍女業務を任せるが、公爵家やこの家のことで戸惑うことも多いだろう。だからソフィも君の専属にする」


 ひゃあ……二人も専属の侍女を置くなんてかなりの贅沢だ。


「初めまして、お会いできて光栄にございます。私はソフィと申しますわ」


「初めまして、よろしくお願いします。こっちは私が幼い頃からの侍女のジャンヌです」


 ソフィもとても優しく落ち着いた感じの女性で、仲良くやっていけそうだとほっとした。


「では若旦那様、女性には色々と準備がございますのでまた後ほど。ゆっくりしててくださいませ」


 うふふと笑ったソフィは少し悪戯っぽくラフを見つめた。彼は少し目を逸らして「あ、ああ」と気まずそうに部屋を去って行った。


「さあ、若奥様!お疲れだとは思いますが、ピッカピカのツルツルにしましょうね。ジャンヌさんお手伝いお願いします」


 ――は?ピッカピカのツルツル?


「はい!若奥様はすぐに手入れをサボりがちですから、少し強引にせねばなりません」


「まあ、そうなのですね。このソフィにお任せください。併せてお風呂や洗面所、お化粧台なども説明しますわ」


 そしてあれよあれよと言う間に花が浮かんだお風呂につけられて、髪にオイルをつけられて爪を磨かれ……化粧水とか乳液とか他にもよくわからないクリームを死ぬほど塗りたくられた私は、お化粧をしていないにもかかわらずツヤツヤのピカピカになっていた。


「若奥様は素材が良いですね。素晴らしいです」


 ソフィに褒められて、ジャンヌが何故か自分のことのように嬉しそうにしていた。たっぷり時間をかけて準備をされたので、全てが終わった頃にはすっかり夜になっていた。


 そして部屋で軽く食事を取った後に美しい夜着を着せられて「完璧です」と二人に太鼓判を押された。話には聞いていたけれど、私がこんな薄い生地を着る日が来るなんて。


「恥ずかしいわ」


「とりあえずはガウンを着ておきましょう。きっと若旦那様が上手くしてくださいますから」


 ジャンヌが私にガウンをかけて前が見えないようにキュッとリボンを結んでくれた。


「若奥様、大丈夫です。幸せな夜をお過ごしくださいませ」


「ジャンヌ……ありがとう」


 彼女は私をギュッと抱きしめて、夫婦の寝室まで見送ってくれた。ソフィも「では若旦那様を呼んで参りますね」と部屋を去っていった。


 ドキドキドキドキ……胸が苦しい。私はちゃんと出来るのだろうか。彼は私の全てを見てがっかりしたりしないだろうかと少し不安になってくる。


 控えめにノック音が鳴った。


「私だ。入ってもいいかな?」


「はい」


 私は震える声をなんとかおさえて、はっきりとそう言った。入ってきたラフは楽なスラックスにガウンを羽織り、髪はまだ少し濡れていた。


 お風呂上がり……という事実が彼の色気をアップさせていてクラクラしそうだ。ラフはベッドに座っていた私の隣に腰かけた。


 ギッと軋む音が聞こえ、心臓のスピードが急激に上がったのがわかった。


「つ、疲れていないか?」


「あ……はい。大丈夫です」


「そうか……うん」


「はい……」


 なんとなく気まずい。これはどうやってそういう雰囲気になるものなのだろうか?全くわからない。


「はあ、だめだな」


 ラフはそう言って、大きなため息をついてパタンと後ろのベッドに倒れ込んだ。だめ?だめとはどう言うことだろうか?私ではその……そういう気分にならないという意味だろうか?


 彼は倒れたまま、ずっと目を手で隠していた。私は女としての魅力が足りなかったのかと涙が出てきた。あんなに二人が頑張ってくれたのに。だめなんだ……


「ひっく……うっ……ひっく……」


 私が泣き出したのに気がついて、ラフが驚いて飛び起きた。


「ロージー!?ど、どうしたんだ?もしかして共寝が嫌だったのか?それなら……今夜は無理しなくてもいい。君の気持ちが固まるまでいくらでも待つから」


 彼はアワアワと焦り、私の涙を自分のガウンの袖で優しく拭いてくれた。


「ひっく……ひっ……だってため息。それに私がだめだって。だから……あなたが私に魅力を感じないのかと」


「ち、ち、違う!違う違う!全く違うから!!」


「え?」


 あまりに必死な声に驚いて、涙が引っ込んでしまった。


「ロージーが……あまりに綺麗で、少しでも触れたら理性が飛びそうで精神統一していた。だめと言うのは自分がだめだなってことだ」


「……本当ですか?」


「本当だよ。だってこんなに愛しているのに」


 彼は私をギュッと抱きしめた。ラフの心臓もすごく早く動いているのが聴こえる。ああ、私と同じなんだ。


「触れてもいい?」


「はい」


 彼は嬉しそうに微笑んで、チュッとキスをした。触れるだけのキスが顔中に降ってきて、くすぐったい。


「ふふ、なんだかくすぐったいです」


 ふふっと笑うと自然と力が抜けた。その瞬間、唇を塞がれそのまま優しく抱き締められた。


「好きだ」


 ラフはいつもの爽やかな顔ではなく、初めて見る男っぽい顔で私をジッと見つめている。


「は、は、恥ずかしいです」


「顔を隠さないで。全部見せてほしい」


 彼の甘い声が耳元に響く。私はもう何が何だかわからなくなってきた。


「心から愛してるよ……ロージー」


「私もです」


「可愛い。好きだ、離したくない」


 最初は緊張ばかりだったが、彼にキスをされ抱き締めてもらうと心地が良く幸せな気分でいっぱいになった。


「はい。離さないでください」


 彼から与えられるばかりではいけない。私はラフをギュッと抱き締め返した。









最初に投稿したものから、少し話をカットしています。

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