14 変化
私は舞踏会に来ている。そして周囲からものすごく視線を感じる。
「あの子は誰?見たことない子ね」
「ほら、ジェラール伯爵家の……なんだったっけ?ロザリー嬢じゃない?」
「あの歌姫の娘か。でも彼女はもっと野暮ったくなかったか?」
「ほお、こう見ると母親に似ているな」
いつもは、いてもいなくてもわからないような存在感の私だが今回は違う。自分が変わるための第一歩として、服装と化粧を変えたのだ。
色んな噂はされているが、概ね良い意見のようで内心ホッとした。
数日前にラファエル様からのお手紙をいただき、私は自信をつけるためにまず出来ることからしてみようと思ったのだ。
「お父様、ドレスを新調したいの。だめかしら?」
普段物を強請ることない私がお願いしたとあって、お父様はかなり喜び張り切って高いドレスを用意してくれた。
「ああ、綺麗だ。ロザリーがドレスが欲しいと言ってくれるなんて嬉しいよ」
「お父様、ありがとう」
そんなこんなで素敵なドレスを手に入れた私は、舞踏会の当日気合を入れてそれに身を包んだ。
「ジャンヌ……今日はあなたに全てを任せるわ。とびきり綺麗にして欲しいの」
「お嬢様っ……!!」
ジャンヌは涙を流す勢いで感動し、それはそれは丁寧にお化粧とヘアセットをしてくれた。そんなこんなで完全武装して舞踏会に乗り込むことにしたのだった。
今までは身体のラインの出る服は避けていたけれど、勇気を出して選んだのは自分の瞳の色と同じアンバーのドレス。豊かな胸元をいやらしくない程度に見せ、細い腰も目立つデザインだ。セクシーながらも裾にはレースの花が沢山ついていて可愛らしさもある……今の私の年齢にはピッタリのドレスだと思う。
お父様にエスコートされ会場に入り、そのままダンスを踊った。いつもよりみんなから注目を浴びているのがわかるので、緊張してしまう。
「ロザリー、胸を張りなさい。君は今夜の舞踏会で間違いなく一番綺麗だよ」
「ふふ、お父様ったら。そういうの親バカって言うのよ」
「私の自慢の娘だからね。ロザリーが、少しでも前向きに自信をもってくれたら……本当に嬉しい」
穏やかに微笑むお父様はとても楽しそうだ。お父様がこんなに喜んでくれるなら、もっと早く綺麗になればよかったと少し後悔した。
「お父様、大好きよ」
「そんな嬉しいことを言われたら、涙で前が見えなくてステップを間違えそうだよ」
お父様はそんな冗談を言いながらも、完璧に私をリードしてくれた。そしてダンスが終わると、お父様は各方面に挨拶に行かなくてはならないと告げた。
「一人にするのが不安だな。ロザリー充分に気をつけなさい。今夜は声をかけてくる奴が多そうだ」
「お父様、大丈夫よ。何かあればすぐ呼ぶから」
「ああ、本当に気をつけるんだよ」
お父様は何度も私に念を押し、少し不安そうにしながら離れていった。
すると、急に沢山の男性に囲まれて話しかけられて驚いてしまった。
「ロザリー嬢、お綺麗ですね。なぜ今まで輝く君の素晴らしさに気が付かなかったんだろうか」
「ダンスもお得意なんですね。お美しいあなたと是非踊らせてください」
「ああ、なんて素晴らしいスタイルなんだ。これは神が与えた宝ですね」
ひぇえ……手のひらを返したように群がってくる御令息方に引いてしまう。今までは全く声をかけられなかったのに。歯の浮くような台詞に苦笑いを浮かべてしまう。
「ありがとうございます。少し疲れてしまいましたので、また後で機会がございましたら」
私は断るために笑顔で頭を下げて、その場を去ってバルコニーに逃げ込んだ。
「では僕とゆっくり休みましょう。奥に休憩室がありますから」
しかし信じられないことに、一人の男が追ってきたのだ。そしてニヤニヤといやらしく笑いながら、腰を強引に引き寄せられた。
「きゃあ!」
「こんな素敵なのに反応は初心なんですね。大丈夫ですよ、僕が夜通し可愛がってあげますから」
何この人?勝手に触れるなんて失礼ではないか。しかも可愛がる?なんか笑ってるし、気持ち悪い。
「一人で大丈夫ですから」
私はこの男の手を押し退けようとしたが、力が強くてピクリとも動かない。
「わざと嫌がってる振りしてるの?君が強引にされるのが好きなら僕もそうしちゃうけど?」
――は?振りじゃなくて普通に嫌なんだけど。
「もう……!やめ……」
この男が気持ち悪すぎて私が大声を出そうとしたその時、男の腕がおかしな方向に捻り上げられていた。
「離せ、嫌がっているだろう。酔ってるなら、覚ましてこい。王家主催の舞踏会で騒ぎを起こすな」
恐ろしく低い声で男をギロリと鋭く睨みつけているのは、騎士の隊服に身を包んだラファエル様だった。
「ひぇ……痛っ……ラ、ラファエル様!?」
男は彼を見て青ざめ、ガタガタと震えていた。
「今すぐ消えろ。二度と彼女の前に顔を見せるな」
その言葉を聞いた瞬間、男は手を押さえながらすごい勢いで居なくなった。
「あ、ありがとうございます。あの……」
ラファエル様は私をジッと見つめて、不機嫌そうに眉を顰めた。なんか怒っていらっしゃる?
「どうしてあなたは……今夜に限ってそのようなドレスを?」
「少しは見た目を変えてみようかと。やっぱり変ですかね?」
あはは、と自虐気味に笑って誤魔化そうとした。しかしラファエル様は全く笑ってくれない。
「今夜は……なん……です」
彼は苦しそうに何かを呟いたが、聞き取れなかった。
「え?なんですか?」
「私は今夜は仕事で、殿下の護衛なんです」
「だから騎士の隊服なんですね。お疲れ様ですわ」
私はニコリと微笑み、彼の仕事を労った。しかし、彼はグッと拳に力を入れて唇を噛み締めた。
「なん……で!私が……傍にいられない時にそんな美しく可憐な装いで現れるなんて……酷いではありませんか。事前に仰っていただければ調整して、パートナーを申し込んだのに」
「えっ!?」
彼がパートナーだなんだと言い出したので、私の頬は真っ赤に染まった。
「……もちろん振られたのを忘れたわけではありません。でも、魅力的なあなたが一人だなんて危険すぎる」
「魅力的なんて」
「わかったでしょう?沢山の男どもがあなたに話しかけていたことがその証拠です。心配ですから……お父上の傍に居てください」
彼は私の両肩を掴んで、懇願するようにそう言った。私が素直にこくん、と頷くとラファエル様は安心したようにふわりと笑った。
「では、私は配置に戻ります。どうか……どうかくれぐれもお気をつけて」
そのまま去って行こうとする彼を、私は呼び止めた。
「お手紙……っ!嬉しかったです。あの、まだ……出る勇気は出ないんですけど……その……」
辿々しく話す私に、彼は嬉しそうに目を細めそっと頭を撫ででくれた。
「もちろん出たいと思われたらでいいです。勝手なことをして申し訳ありませんでした。ではまた」
彼の背中を見送りながら、やはり胸がドキドキする。ラファエル様はどうして私のピンチに駆けつけてくれるのだろう。私もこの見た目ならば……彼と並んでも恥ずかしくないだろうか?
彼の言いつけ通り、もうお父様の傍にいようと会場をキョロキョロと探しているとまた声をかけられた。
「ちょっとよろしいかしら?お話がございますの」
見目麗しい御令嬢方にあっという間に囲まれた。全くよろしくない雰囲気だけど、私は無視することもできずにそのまま裏庭に連れて行かれてしまった。




