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1 まさかの相手

「この国の中で君と私の相性が遺伝子的に最も良いらしい。だから結婚してくれないか?」


「……は?」


 私は今、王宮のある部屋に呼び出されてここにいる。申し込んでいたお見合いで、希望に合う人とマッチングできたとの連絡があったからだ。


「王家から連絡が来た。ロザリー嬢との結婚が最適だと、マッチング結果が出たのだ。君と結婚すれば、きっと子宝に恵まれ幸せな家庭が築け仕事も上手くいくだろう……と」


「こ、子宝っ!?」


 素っ頓狂な声を出した私を見て、彼は眉を顰めて不機嫌そうな顔をした。あー……美形の怒った顔って怖い。


 そして今の私は思考回路が停止し、ポカンと口を開けて馬鹿みたいな顔をしていると思う。だってそんなマッチングは絶対に間違っている。


「あの……それは何かの間違いでは?もしくは人違いかと。ラファエル様と私では釣り合いが取れません」


「確かに釣り合わぬかも知れないが……結果を覆すことはできないんだ。私の結婚相手は、間違いなくロザリー・ジェラール嬢だよ」


 誰にでも優しい彼にはっきり()()()()()()と言われて、少しだけ傷付いたけれど、それも仕方がない。


 だって彼は眉目秀麗、成績優秀で剣術も強い上に……家柄は伝統ある公爵家の嫡男で超がつくほどのお金持ち。彼が微笑むだけで、周囲からはキャーキャーと黄色い歓声が上がり御令嬢達は頬を染める。大袈裟ではなく、若い御令嬢方はほとんどみんな彼に恋をしていた。


 彼が十代前半の頃にお付き合いされていた恋人達は、それはもう豪華絢爛。美人からはじまり、可愛い系にセクシー系……もちろん清純派や元気系までどの御令嬢も素晴らしい女性が揃っていた。


 なのに今は全員と別れていらっしゃるし、この数年は浮いた噂も全くない。


 かたや私は平凡で地味、真面目なことくらいしか取り柄のない至って普通の伯爵令嬢。家だって特別お金持ちなわけでも、王族や権力者と懇意にしている……とかいうメリットもまるでない。スタイルだけは良い方だが、注目を浴びたくないのでいつも体型のわからないドレスを着ている。


 実は昔はひとつだけ人に誇れることがあったのだが……今はそれもなくなってしまった。


「ラファエル様ともあろう方が、マッチングを利用される必要なんてありませんよね?だから、その……お断りされたら良いと思いますわ」


「なぜ?独身貴族はこの制度を全員使えるはずだ。だから私が利用しても何の問題はないよ」


 それはそうですけど。でも、お相手を選り取り見取りできるあなたが使う必要ないでしょう!?


「君が出した条件は歳の差十歳以内で側室を取らない人だろう?私は妻は一人で良いと思っているから条件は合っている」


 いやいやいやいや……!そんな男性他にいっぱいいますから!!何を言ってるんだ。


「ではラファエル様のご条件は?」


「……同年代で真面目な女性」


 なにそれ?それこそそんな女性は、五万といるではないか。そんなことで妻にされては困る。


「そんなの私でなくてもよろしいではありませんか?今回はご縁がなかったということで」


 私はペコリと頭を下げて、その場を後にしようと思ったがその瞬間にガシッと腕を掴まれた。


「ひぃっ!」


「待ってくれ」


「言いません!私なんかとマッチングされてしまったなんて……誰にもこのことは言いませんから許してください」


 私はよくわからないが、怯えながら必死で許しを乞うた。何に謝っているのかもよくわからないが、とりあえずこんな縁談はあり得ないし早く帰りたい。


「お願いだ。私を助けてくれ。もう沢山の御令嬢方に囲まれたり追いかけられるのは嫌なんだ。それに後継問題は切実だ!あなたも貴族令嬢ならわかるでしょう?」


「そんなこと言われましても。お好きな方にお声かけしたらよろしいじゃありませんか。ラファエル様なら断る御令嬢はいらっしゃいませんわ」


「……断る御令嬢はいない?」


「はい、そりゃそうですよ」


 私はぶんぶんと何度も首を縦に振った。これは本当だ。きっとどんな手を使ってでも彼の妻になりたい御令嬢は沢山いる。子どもだっていくらでも産みたいという人がいるだろう。


 だけど私はラファエル様が苦手だった。だって正面から見ると眩しいくらいの男前だし、みんなに優しいのも凄いと思うがなんか自分とは別世界の人みたいで話すのも緊張するからだ。



 実は彼は学生時代の二つ上の先輩だ。地味な私にもラファエル様は優しかった。図書館で勉強していたら小声で『頑張っているね。これ貰ったんだけど、甘い物苦手なんだ。食べてくれると助かる』なんて声をかけてくれて、王都で人気の高級なお菓子を横流ししたりしてくれた。それも一度や二度ではない。


 ファンの方々に甘いものは嫌いだと断ればいいのに……と思いながらも、優しいこの人は言えないのだろうなと少し可哀想に思っていた。


『あ、ありがとうございます』


 私が視線を彷徨わせ、オドオドしていると彼はふわっと微笑んでくれる。


『もらってくれてありがとう』


 こちらがお礼を言わねばならないような、レアで高級なお菓子をいただきながら私なんかにも優しくできる紳士なのだから彼がモテるのも納得だなと思った。何もこれは私だけ特別なのではなく、彼は他の人にもしているのだ。




「じゃあロザリー嬢がいい」


 何言ってるんだこの人は。全然話が通じないではないか。


「……っ!だから私以外で」


「君が言ったんだよ?断る御令嬢はいないって」


 ラファエル様はニヤリと笑った。その笑顔はまるで美しい悪魔のようで、背中にツーッと冷や汗が垂れる。


「そ、それは()()()()って意味で……」


「君はさっきそんなこと言ってなかったけど?」


 ラファエル様にジリジリと歩み寄られ、私は一歩ずつ後ろに下がった。


「決まりだね」


 彼は私の髪を一束手に取り、ちゅっとキスをしてウィンクした。私はぶわっと頬が染まる。な……な……何するの!?それに整った顔が至近距離にあってクラクラする。


「い、嫌です」


「じゃあお試ししよう。確かマッチングしたら……三回はデートできるんだったよね?それでどうしても私を受け入れられないなら諦めるよ」


「ええ……!?」


「そうしよう。まずは何でもやってみないとね。これからよろしく」


 ラファエル様はニッコリと爽やかに微笑んだ。そして手を握られ無理矢理握手をされた。


「では……お試しで」


 爵位が下の私にこれ以上強く断ることなんてできるはずがない。もちろん制度的にはできるが……なんとなくする勇気がない。ああ、どうしてこんなことに。私は穏やかに静かに地味に暮らしたかっただけなのに。


 こんなことが彼のファン達に知られたら殺される。きっと断ったら『あなたごときがラファエル様をお断りしたなんて調子に乗るな』と言われるだろうし、受け入れたら『ラファエル様と釣り合うなんて思ってるの!?ふざけるな』と言われるだろう。


 ――どちらも地獄だ。


 この地獄を乗り越えるためには、ラファエル様からお断りをしてもらうしかない。


 私は全力で彼に嫌われてみせる!と心に強く誓った。

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