第1話 いきなりピンチな俺だけど
息が切れそうだった。
俺は走りに走った。
なにごとかとふりかえる歩行者を押しのけて。
背後には、けたたましい叫び声をあげ続けている追手が迫っていた。
俺がつきとばした犬顔の若者が果物屋の屋台につっこんだ。
「てめえ、なにしやがる!」
「ゴメン!」
頭にリンゴをのせて、犬歯をむき出して怒る相手に俺は謝りながら走り、四つ辻に出たところで手首の腕時計に話しかけた。
「どっちだ?」
『右です。』
「俺から見て?」
『はい。』
俺は右に大きく旋回して走り、年老いた風の狐顔の歩行者や熊顔の親子連れに抗議を受けた。
「あぶないのう!」
「パパ! あの人間、こわいよう。」
「衛兵を呼ぶぞ!」
「ゴメン、ゴメンってば!」
それでも俺は、ひたすら謝りながら全速力で走り続けた。なぜか? 答えは簡単で、たちどまったら死ぬからだ。
正確に言えば追手に殺されるということだ。
さらに走り続けてもう限界、という時に俺はT字路に突きあたった。
「どっちだ!? あと、もう少しすいたルートは? あいつの前に、街の人に殺されそうだ。」
『左です。あなたから見て。文句を言わないで、指示通りにしてください。足の速さだけがタケちゃんのとりえですから。僕の計算は絶対に間違いないです。』
「生意気な! 機械のくせに! あと、俺の暗号名はジョニーじゃなかったっけ?」
青息吐息で走りを再開した俺は精一杯毒づいたが、相手には全く効果がなかった。
『いいんですよ、タケちゃんで。あと、僕は機械ではありません。高度な自律型AI搭載後期甲種派生型改、子の四七式重装甲機動強襲戦闘車輌、通称ヒ…』
「わかった! わかったから黙れ!」
なぜいきなり俺が、妙な生き物がウヨウヨいる街の大通りを必死で走っているのか? そして、話している相手の生意気なやつは誰なのか?
それを説明するには一旦時を遡って、まずはことの発端から話さなければならない。
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