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第七話 お前もか

 

「まず奴らの数に対抗するためにこちらも数を用意したい。つまり、眷属召喚スキルだ」


 この迷宮の特性は不死系スキルもちのアンデッドモンスター、そしてそれら雑魚敵が無限に増殖する眷属召喚スキル持ちの存在。

 不死系スキルは特効の聖属性の付与などで対処するとして、眷属召喚スキルに対抗するにはこちらにも眷属召喚スキルを組み込むのが一番手っ取り早い。


「生憎俺の手持ちにはいないが、お前らはどうだ?」


 そう問いかけるとスッと視線をそらし、もう片方を伺う二人。いかにも何かありますと言わんばかりの二人に訝しげに問いかける。


「……一体どうした」


 もしかしたら何か話しづらい事情があるのかもしれない。だがそれはそれとして、全員の命がかかった作戦会議でもある。なあなあにするつもりはない。


「それで、どうなんだ?」


 再び問いかけると芹華が観念したように視線を落とし、やむを得ないとうなずいた。


「……手持ちに、ボアオークが。とても紳士的で頼れるカードなのですが、その……」

「どうした?」


 ボアオーク。Dランクモンスター、オークの上位種でオークを無限召喚する眷属召喚スキルの持ち主だ。あまり見かけがよろしくないが、前衛としても頼れる優良カードである。その優良カードについて言いよどむ芹華に本当にどうしたのだと首を傾げる守善。


「その、お見せするのが恥ずかしくて」

「恥ずかしい?」


 いまの話のどこに恥ずかしがる要素があるのか。さっぱり分からない守善はかなり不審げに芹華を見ると、観念したように呟く芹華は問題のボアオークを召喚した。


「来なさい、マルコ」


 光とともに現れたのは聞いていた通りのボアオーク。見事な豚面をした逞しい獣人だ……が、その姿を見た守善は大きな困惑を示した。


「……ボアオーク? いや、ボアオークと言えばボアオークだが」


 その豚面は確かにボアオーク。ただしその身に纏う衣装がまた異彩を放っていた。普通なら素朴な腰蓑や肩当て、獲物のハンドアックスを装備しているはずのボアオーク。だがそのボアオークは……なんというか、非常に現代的な衣装を見事に着こなしていたのだ。


「……世界で一番格好いい豚(ポ○コ・ロッソ)?」


 ヒデオがポツリと零したニックネームが大当たり(ストライク)だ。

 赤のネクタイを首に締め、真っ白なスーツをお洒落に着こなす。更にトレンチコートを羽織り、つぶらな目を隠すように丸レンズのサングラス。両手には丈夫な革手袋がハメられ、頭にはボルサリーノのソフト帽をかぶった伊達男のいでたち。

 潰れた豚鼻の横には愛嬌のあるちょび髭が生え揃い、頬には大胆不敵な笑みが刻まれている。

 かすかな男の色気さえ漂わせる、世界で一番かっこいい豚がそこにいた。


「お前気は確かか?」

「何のことか分かりませんわ」


 その姿は日本での知名度で言えば間違いなくトップクラスのキャラクターそのもの。こいつは天下のジ○リに喧嘩売るつもりなのだろうかと守善の額に冷や汗が一筋垂れ落ちる。疑問と困惑を全力で込めた限りなく真顔での問いかけに芹華は体ごと視線を反らしてすっとぼけた。


「あー……。スマンな、大将。俺のことでうちのお嬢をあまり責めないでやってくれ」


 守善の問い詰めるような声音にごくごく自然な動作で芹華の前に立ち、矢面に立つボアオーク。宥めるようにかけた声も威圧感や嫌味が全くない。しかも低く掠れた声質に理性的な抑揚が加わったシブくイイ声だ。

 非の打ち所がない紳士的な立ち居振る舞いだった。


「マルコ! 私は責められるようなことは何もしていませんわ!」

「そりゃそうだが……許しもなしに他所様の流儀(スタイル)を拝借しておきながらそれをすっとぼけるのも筋道が立たんだろう」


 プンプンと頬を膨らませて噛みつく芹華を前に参ったとばかりにボルサリーノ帽を抑えて相手をするボアオーク(マルコ)。大人と子供、あるいは男親と娘か。

 画面の中から飛び出してきたようなハマり役だった。役作りとしては異様に完成度が高い。

 そのまましばしやいのやいのと賑やかに口喧嘩を交わしていた主従だが、ひと段落付いたのか芹華が気を取り直して件のボアオークの紹介を始めた。


「改めて紹介しますわ。彼はマルコ。フルネームはマルコ・ポルチェリーノ」

「おい」


 流石にそのままではないが、少し詳しいものが聞けば一発で元ネタが分かるネーミングに再びツッコミを入れる。ここまでいくと下手にそのままの名づけをしなかった理性を褒めるべきだろうか。

 芹華本人も自覚があるのか後ろめたそうに説明を続ける。


「……出来心です。本当に出来心だったんです。子供の頃から大好きな作品で、憧れのおじ様で、そんな方にそっくりのカードと出逢ってしまったものですから、その、つい」

「……いや、冷静に考えるとお前を責めるような話ではないからそれでいいんだが」


 ふと我に帰った守善が蚊が鳴くような声で言い訳を重ねる芹華に向けて宥めるように言葉を紡ぐ。

 冷静に考えれば守善の手持ちの中にも似たような劇物というか特級の危険物がいるのであまり声高に責める気にもなれない。

 ただ、なんとなく最初に攻略方針について話し合ったタイミングで彼女がオークについて切り出さなかった理由が理解できた気がした。

 要するに自分のコスプレ趣味というか、ミーハー趣味について知られたくなかったのだろう。


「芹華、お前もか」

「お前もかということは……お前もなのか」


 そして芹華に向けて共感の視線を向けるのはヒデオである。

 いやに趣深い顔で分かるぞとばかりに頷いている姿を見て守善は戦慄した。まさか、これ以上の劇物がいるのかと。


「紹介しよう。ハイピクシーのクリストファー・ロビン・グッドフェロー。俺はロビンと呼んでいる」


 ハイピクシー。Dランク、ピクシーの上位種でこれまた眷属召喚スキル持ちだ。

 ヒデオが握る一枚のカードから光が飛び出し、昆虫のような透明な羽を背中に生やした無邪気な少年そのものの姿をした小人……妖精が現れる。ただし上下に野球のユニフォーム。頭に野球帽をかぶり、手には野球グローブとどこから見ても野球少年そのものの姿をしていた。

 思わず二度見した守善と芹華は悪くないだろう。


「オイラ、ロビン。クリストファー・ロビン・グッドフェロー! シャーウッドの森出身。趣味、()()()のナイスガイ! ロビカスって呼んでくれよな!」

「おい、ヒデオ。なんだこのキチガイは?」

「うむ、まあ……そうだな。見ての通り(キチガイ)だ」

「おおっとヒデェ副音声(ルビ)が振られたな。オイラそういうのが分かるんだよね! オイラの傷ついた心を賭けて訴訟しようぜ! 種目はやきうな!」


 いまも意味不明な戯言を超ハイテンションで喋り散らしている。”ハイ”ピクシーなせいか、まるで麻薬(クスリ)をキメているかのようなアッパラパーな台詞を垂れ流していた。

 ()()()ではないと一目で分かる危険物だ。それも最悪の予想の少し斜め上を行く類の。しいて言うなら守善の手持ちにいるバーサーカー(B.B)に近い。


(……そうか。よく考えればうちのキチガイ(B.B)もコレの同類か)


 この明らかにキチガイじみたカードの同類が自分のメインカードにいることに改めてしみじみと守善の胸に染み入るものがあった。


「ポジションはピッチャー。得意な球は殺死球(デッドボール)! ただいまホームラン以外は全部無意味の条件で打率8割超えのバッター募集中。さあ、野球やろうぜ!!」


 あまり野球に詳しくない守善にも分かる畜生そのものな発言の数々。先ほどのマルコすら超えるインパクトの塊の存在に芹華が完全にフリーズしていた。

 これまで体験したことのない未知の塊がタップダンスを踊りながら襲撃をしかけてきたような状況である。精神力の許容上限を超えてしまったのだろう。

 気持ちは分かる、大いに分かると守善は心の中で頷いた。守善が同じようにフリーズしていないのはロビカスと同等かそれ以上のキチガイを相手にした経験があったからに他ならない。

 ……あまり自慢にならない経験だった。むしろ一生経験したくなかった、と守善は思う。


『……………………』


 この危険物にどう触れるべきだろうか。場に互いの出方を伺うような沈黙が下りた。


「その……なんだ。俺が紹介するのを迷った理由がわかってもらえたと思う」

「ええ、分かりましたわ」

「嫌というほどな」


 守善と芹華は即座に頷いた。そうさせるだけのあの問答無用のインパクトが有った。


「……この際だ、俺も恥を晒しておくか」


 普通なら見かけないだろう色物カードが二枚。更に自分の手札にとびきりの色物が一枚。

 もはやそういう”流れ”が来ているとしか思えない。ここで下手に隠し立てすると後で予想できない方向に影響しそうな気配すら感じている。


「……B.B、出てこい」


 一呼吸分の沈黙で迷いを振り切り、守善は覚悟を決めて一枚のカードを召喚した。

 二人から()()()という視線を向けられたが、全力で無表情を取り繕って黙殺する。


「呼んだか、旦那」


 光とともにのっそりと姿を現したのはいつものごとくデ○ズニー看板キャラクターのパチモノことバーサーカー、B.Bだった。ジ○リ以上の超大手に喧嘩を売り歩いている危険物の存在に芹華の目が点になる。


「あなた正気ですの???」


 さっきとは立場をそっくり入れ替えた同じような言葉を向けられ、返す言葉もない守善は思いきり目を逸した。今なら芹華の気持ちがよく分かる。お互いに全力でブーメランを投げつけ合っていたわけだ。


「……あぁー」


 ちなみにヒデオは納得したような呟きを漏らしていた。同志というか同類の被害者を見つけたような視線が守善に向けられ、目が合うとみなまで言うなとばかりに深々と頷かれる。互いの気持ちが深く通じ合った気がした。あまり嬉しくないシチュエーションだった。


「おい」

「なんだい?」


 色々と複雑な感情のやり取りが巻き起こっている外野を他所に視線が合った二体が不意にニヤリ、と笑う。


「お前、野球はすんのか?」

「嫌というほど」


 ハイピクシー(ロビカス)の問いかけに堂々と断言するバーサーカー(プ○キ)


「そっちこそ球は放るのか?」

「嫌になるほど」


 立場を変えた問いかけが投げられ、自信満々に胸を張るロビカスことハイピクシー。


「そっちの得意分野は棒振りかい?」

「試してみるか?」


 打てば響くやり取りにニヤリ笑う二体。B.Bとロビカスは周囲を他所に二人だけの世界を作り上げていく。


「どうやら俺たちは――」

「――好敵手(シンユウ)のようだな」


 大きすぎるバーサーカーと小さすぎる妖精。対照的な二体ががっちりと握手を交わした。混ぜるな危険というニュアンスで最強最悪のタッグ結成である。

 奴らの脳裏では今頃存在しない記憶でも再生されているのかもしれない。


「旦那、俺ちょっと用事ができたんで抜けるわ」

「オイラもー。いいよな、マスター」


 意味の分からない意気投合を済ませた二体はマスターに向けて「それじゃ!」とばかりに片手を上げた。そのまま二人は打って打たれての草野球をするために城外へ向かって歩き出そうとする。マイペースというかフリーダム過ぎる連中だった。


「好きにしろ。というか疲れて何かする気力がなくなるまで戻ってくるな」

「オッケー」


 B.Bのゴーイングマイウェイをむしろ隔離策として利用することにした。

 無駄に輝くような笑顔で親指を立てるB.B。味方ながらウゼェ、と守善は思ったが口に出しはしなかった。


「右に同じだが、迷惑だけはかけるなよ」

「アイアイマム!」

「そこはサーじゃないのか……」


 隣のヒデオも似たようなやり取りを交わしている。あっちのハイピクシーも大概自由だった。ビシリと決めた敬礼が似合っており、逆にシュールさを醸し出している。


「俺らのマスターは気前がいいぜ」

「やったな相棒」


 仲良くガッツポーズをとりながら賑やかにその場を離れていく二体。残された者たちの間に互いの反応を伺っているような、なんとも居たたまれない沈黙が降りる。


『……………………』


 その居たたまれない沈黙を保ち、その後ろ姿が見えなくなるまで見送った守善は……、


「――よし、会議を再開するぞ」


 あっさりと、その場に漂う沈黙を断ち切った。


「それだけですか。あれを見て、それだけなのですか」


 ここまでずっと許容量を超えた光景にフリーズし続けていた芹華が思い切り守善へツッコミを入れた。

 芹華のツッコミに対して守善は虚無感というか、悟りを開いたようなうつろな表情で自身の経験談を語る。


「いいか、深く考えるな。慣れろ。あれはああいう類の生命体だ。意味が分からんし、理解も出来んからただそういうもんだと思っておけ。下手にツッコミを入れればこっちが向こうのペースに巻き込まれる。

 できるだけ向こうの自由にやらせておけ。それがあいつらと付き合うコツだ」

「同意見だ。仲間として、気がいい奴だがたまに俺でも付いていけないというか想定の斜め上をかっ飛んでいく奴でな。

 そのくせ結果だけ見れば文句のつけようもない満点を叩き出してくるからタチが悪い」

「そっちもか」

「お前もか」


 言葉を重ねるごとに守善とヒデオの間で理解が深まっていく気がする。あまり出会いたくない類の同類の被害に遭っているからだろう。


『……………………』


 スッ、と無言で手を互いに差し出す。そして重ね合わせた手を力強く握った。対等な横の交友関係が絶無に等しい守善に”友人”と言える相手が出来た瞬間だった。


「…………???」


 なお芹華は控えめに言って困惑していた。意味がわからない珍獣コンビの登場に続き、そのマスター同士が訳が分からないところで深くわかり合った光景は彼女の処理限界を超えていたのだ。

 彼女は思う。

 もしや自分がボアオークにコスプレをさせていたことなどちっぽけな悩み、隠し事ではないだろうか。

 その考えが正しいか間違っているかはさておき、完全に注目をB.Bとロビカスに掻っ攫われたマルコが若干肩身が狭そうにしていた。


【Tips】ロビカス

 The・ロビカス。森の魔王の異名にして尊称。とあるゲームの裏ボスにしてラスボス。

 あらゆる魔球を投げ分け、ゲームクリアのノルマが50球中40ホームラン、打率にして.800を要求されるという畜生(仕様上このゲームではヒットはノーカウント。失敗扱いである)。

 実は五歳児。……五歳児???

 本編のおけるハイピクシーとは全く関係がない。関係がないったらない。


【種族】ハイピクシー(クリストファー・ロビン・グッドフェロー※シャーウッドの森出身)

【戦闘力】300(MAX!)

【先天技能】

 ・妖精の気まぐれ:妖精の気分は山の天気よりも変わりやすい。自由行動に対する大きなプラス補正、精神異常への耐性、一部の拘束スキルの無効化。たまにマスターからの命令を無視する。

 ・妖精の輪:下位種族であるピクシーを無限召喚する。

 ・初等魔法使い→中等攻撃魔法(CHANGE!)


【後天技能】

 ・ロビカス:森の魔王であるロビカスがロビカスたる由縁。投射攻撃全般に極めて大きなプラス補正。加えて五〇本中四十本ホームラン、打率にして.800を上回らなければ負けを認めない森の畜生。攻撃魔法のランクを上げる。状態異常魔法、回復魔法、補助魔法を習得できない。負けず嫌い、テンションブーストを内包。

 (負けず嫌い:どんな窮地でも負けを認めない。窮地に陥るほどテンションが上がっていく。

  テンションブースト:テンションに応じてステータスが上昇する。)

 ・魔球X:あらゆる魔球を自在に投げ分ける。確認されているだけで消える魔球、加速する魔球、分裂する魔球、縦にジグザグ軌道を描く魔球、横にジグザグ軌道を描く魔球などが存在する。投射攻撃に関する大幅なプラス補正がかかる。

 ・レーザービーム:投射攻撃の威力にマイナス補正、速度と正確性にプラス補正。トリガーハッピーと同時使用不可。

 ・トリガーハッピー:投射攻撃の正確性と威力にマイナス補正、投射数及び詠唱速度に大きなプラス補正。レーザービームと同時使用不可。


 ※一部非公開情報あり

 ※シャーウッドの森出身まで含めてソウルネームと規定されている。



【Tips】危険物ランキング

 紅の豚:外見△、中身○ → 結論:コスプレの範疇。まあセーフ。

 ロビカス:外見○、中身☓☓☓ → 結論:メンタル的に危険。隔離を推奨。

 名前を言ってはいけないプニキ:外見☓☓☓、中身☓☓☓ → 結論:コイツが一番危険。

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[気になる点] 初等魔法使い→中等攻撃魔法(CHANFE!) changeの誤植?
[一言] まさかの野球キャラが被るとは・・・・
[一言] ロビカスはゼル伝のリンクの逆VERだからギリセーフ ポルコはコスプレでマダ済むからOK やっぱマンマひねりもないのがNGなんだなぁ
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