プロローグ
ここはDランク迷宮最深層。
アマ最高峰の高みに至ってようやく挑戦を許される迷宮だ。
その中でも攻略難易度最高峰。無数のアンデッドモンスターが蠢く迷宮。通称を『不死者の窟』という。
だがつい先ほどまでフロアを埋め尽くしていた不死者の群れは一匹たりとも残っていない。
「勝った、か」
打ち倒したからだ。
「ええ、勝ちましたわ」
Cランクでも屈指の眷属召喚スキルを持つとされる迷宮主レギオン。群勢の異名を取る青白い霊魂の集合体、恐るべき悪霊の群れを。
「俺”達”の、勝ちだ」
三人の冒険者が完全に、完璧に、完膚なきまでに容赦なく押し通り、切り開き、その命脈を断った。
確かな成果、成長の証に彼らは静かに勝ち、誇る。それだけの価値があるダンジョン攻略だったと確信して。
「レギオン討伐、ご苦労。……いい手際だ、レビィ」
「光栄です、主」
一人は堂島守善。金のためなら魂だろうと叩き売る悪童の後ろにはそのエース、ホムンクルスが静かに控える。夜色の外套をはためかせ、刀身が黒く染まった処刑刀を構えながら。
「流石ですわ、レブレ。私のエース」
「■■■■……!」
一人は芹華・ウェストウッド。良家の子女にして生まれながらのファイターである彼女の傍に在るのは山の如き巨躯。黒き竜体に溢れんばかりの生命力を漲らせ、唸りを上げる竜種、クエレブレ。
「この勝利はお前のお陰だ、リオン。お前が俺のエースでよかった」
「ハッ、誰にモノ言ってやがる。当然だ!」
一人は志貴英雄。冒険者部期待の新鋭であり、誰に対しても正々堂々正面から向き合う快男児。その傍らに立つのはリビングアーマーの鎧と大剣を装備し、獅子の如き豊かな金毛をザンバラに纏めたホムンクルス、リオン。
三者三様のマスターとその真打ちたるモンスターが並び立つ。張り合うように、競い合うように、肩を並べるように。
彼らはこのダンジョン攻略でともに力を合わせて戦った仲間であり、同時に誰よりも負けたくないと意地を張り合う好敵手でもあった。
「このダンジョン攻略も一段落、か」
「私達即席チームもこれで解散ですわね」
「だがここで終わりじゃない。いいや、これからだ」
元よりこのダンジョンを攻略するために集まったメンバーだ。当初の目的を終えれば、チームが解散するのは至極当然。
その上で彼らの縁はまだ切れていない。むしろこれからこそが本番だ。
「確か、開催日は二週間後だったか? ”学内冒険者新人王戦”とやらは」
三人の瞳に火が宿る。
その火が宿すのは苦境をともに乗り越えた事実が生み出す生ぬるい連帯感ではない。こいつらには負けたくないという負けず嫌いだ。
「ああ、我が冒険者部主催、新入生であること以外参加資格不問の無差別トーナメント戦だ。そこで決着を付けよう」
「模擬戦総数、合計七百二十一戦して戦績は結局五分五分。分かりやすく白黒付かなかった以上は、大会で雌雄を決するのが一番手っ取り早いですわ」
バチバチと火花を散らすヒデオと芹華。好戦的ながらも楽し気な二人の横っ面に守善が言葉の剛速球を投げつける。
「……ま、精々気張れ。俺にとっちゃ優勝賞品のCランクカードを取りに行くついでだが、上に昇るための糧は食いでがある方がいい」
ニヤリと笑みを浮かべ、挑発を投げかける。芹華とヒデオ、二人と切磋琢磨する日々は確かに守善を強く磨き上げた。だからこそこの大会でもその恩恵をとことん利用しつくすつもりだった。
有り体に言えば敵は強ければ強いほど乗り越えた時の成長もまた大きいのだ。
「大きく出たな、守善。後悔するなよ? 万が一俺と戦る前に負けたら指を差して笑ってやろう」
「あら、お優しい。私なら一生ネタにして差し上げますわ。折角体を張って笑い物になってくれたんですもの。私も応えなければ不作法というものです」
「言ってろ、馬鹿どもが」
挑発には挑発を返し、互いに笑い合う。肉食獣同士の無邪気なじゃれ合いのような、友好的ではあるがそこはかとない危うさを孕んだ空気だ。
彼らの間に友好はあっても狎れあいはない。そう思わせる緊張感。
長年の腐れ縁を思わせる空気を醸し出す彼らだが、その出会いはほんの数日前のこと――。
このシーンに至るまでの長い長いプロローグの始まりです。
本日二話投稿。お見逃しの方はご注意を。
明日からは一話ずつ投稿予定。
なんとなくお察しされてる方も多いかと思いますが、第二章はスポ根ものとなります。
キーワードはライバル、エース、学生トーナメント。
友人であり好敵手である三人がバチバチやりつつ、ワイワイやる爽やか青春ストーリーにしたい。