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プロローグ


 そこはEランク迷宮最深部。

 難易度は下から二番目、現代日本のどこにでも数多くあるダンジョンに一人の大学生冒険者が挑んでいた。

 ただし挑む冒険者が少々普通ではない。

 冒険者を始めて一ヶ月余り、初心者と呼ぶべき経験の浅さだが既に二ツ星冒険者の資格を己が力で手にしている。

 二ツ星冒険者、全六階級ある冒険者等級のうち下から二番目の等級だがその難易度は高い。挑む冒険者の半分が昇格試験に脱落し、更にその半分が二ツ星への昇格を諦める狭き門だ。

 その狭き門を冒険者登録から一ヶ月余りでくぐり抜けたというのは尋常ではない。

 だが冒険者と率いるモンスターがその前評判に相応しいキレ者、実力者として振る舞えているかは……いささか見方によって分かれるだろう。


「鴉、奇襲に気付くのが遅い」

「ゼータク言わないでくださいよ。むしろアサシンタイプのボスに先手を取らせなかったことを褒めろ! むしろ崇めてください!」


 山伏の装束に身を包む翼の生えた少女型モンスター……天狗と喧々囂々のやり取りを交わすマスター。

 使い慣れたあだ名を呼び、真顔の仏頂面でクレームを入れるマスターだが、対する少女天狗も中々に厚かましいことをのたまう。似たもの主従であり、ある意味相性がいい二人だった。

 深い森の暗闇に潜み奇襲を仕掛けてきたDランクのボスモンスター、クー・シー。先天技能に気配遮断を内包し、迷宮のボス補正を受けた強力なDランクモンスターの奇襲をほんの数秒前にギリギリで切り抜けたところだった。

 索敵系スキルを持つ天狗が直前で奇襲に気付いたことで間一髪危機から逃れたのだ。が、危うくマスターにダイレクトアタックを食らうところだった。それも確かだ。

 奇襲を防ぐのは少女天狗の対応範囲内。マスターはわざとらしく首を傾げ少女天狗の不手際を煽った。


「お前ならできるだろう。それとも俺の見込み違いか? ん?」

「~~っ!? サラッと無茶振りしやがりますね、このクソマスター!」

「ハッ! できる奴にやれと言ってなにが悪い。俺のために馬車馬のように働けカスカード」


 煽るような物言いに少女天狗がこの野郎と怨嗟の念を込めて視線を向ければ鼻で笑われる。互いに煽り合い、ミスをすれば呼吸するようにあげつらう。クソマスター、カスカードと遠慮なく罵り合う二人は一見最悪の関係のように見える。

 だがそのすぐ後に交わした会話を聞けば、それが誤りだと分かるだろう。


「それだけ威勢よく啖呵を切ったんです。既に勝ち筋は付けているんでしょうね?」

「当然だ。奇襲に失敗したアサシンなぞあとは仕留めるだけのカモだろうが」


 当然のように勝利を確信した少女天狗の問いかけに、これまた当然のように傲然と勝利宣言を告げるマスター。

 アサシンタイプのボスの強みは隠密性と高い単体戦闘力。マスターへのダイレクトアタックを許せばモンスターの全滅もありうる強敵。

 だがその強みの半分は奇襲に失敗した時点で潰された。ならばあとは数と暴力を持って正面から押しつぶせばいい。


「ま、同意しますけどね。一度その姿を捉えたからには、私の風は逃しはしない」


 周辺一帯の大気は既に風読みスキルを持つ少女天狗の掌握下だ。姿を消そうが無音で動こうが、実体を持って大気と干渉する以上少女天狗の眼から逃げられる道理はない。少女天狗は大半のアサシンタイプにとって天敵と言えるモンスターだった。


「誰を使います?」

「駄犬どもは休ませたい。いつもの面子で仕留める」


 揃って強気な物言いを交わし、不敵に眼前のボスクーシーを睨みつける両者。

 渾身の奇襲を凌がれたクー・シーはジリジリと退く機を伺っているが、少女天狗の鋭い視線と俊足がそれを許さない。クー・シーが動く機を事前に察知し、牽制を入れることで出掛かりをことごとく潰していた。


「つまり……」

「出番だ。モヤシ、熊」

「はい、主」

「おうよ、俺の棍棒(バット)に任せておきな。一撃で葬らん(ホームラン)をキメてやるぜ」


 色々とひど過ぎるあだ名による呼びかけに二体のモンスターが応える。

 一体は簡素な貫頭衣に身を包んだ中性的な美少年/美少女――銀髪のホムンクルス。

 そしてもう一体は……なんと表現すべきか。色んな意味で危険なビジュアルだった。ジャパニーズエロゲモンスターことやまらのおろち以上にある意味では危険なパロディモンスターだ。

 種族、バーサーカー。その外見を一言で言えば名前を言ってはいけないクマ、天下のディ○ニーにケンカを売ってそうなビジュアルの看板キャラクターが優に2メートルをオーバーする体長を備え、全身にムキムキの筋肉を搭載したかのような……パロディで収まるかギリギリの危険物だ。下手をすれば関係各所から訴えられかねない。

 が、慣れというのは恐ろしいもの。この一ヶ月でその異様な姿に慣れたマスターは気にした様子もなく一行に指示を下した。

 

「鴉、モヤシは犬ころを追い込め。熊、お前はトドメ役だ。リンクで感覚は共有する。全員、抜かるなよ」


 指示した作戦は追い込み猟。

 速度に優れる少女天狗とホムンクルスを勢子(追い込み役)に据え、鈍足だが打撃力に秀でるバーサーカーをトドメ役とする。単純だが合理的な配置だ。加えてリンクと呼ばれるマスターを起点に各モンスターと心を繋ぎ、その力を引き出す技術を用いた感覚共有があれば最早死角はない。

 マスターは自信を持って、そして信頼を込めて作戦を告げることが出来た。


(……たかが一ヶ月。されど一ヶ月、か)


 人間的にはお世辞にも優れているとは言えない守銭奴。それが己だという自覚はある。

 モンスターなど迷宮攻略の道具に過ぎないと言ってはばからず、本質的にはいまもその考えは変わっていない。だと言うのに下す指示にはモンスターたちへ向ける確かな信頼が籠もっていた。


 彼らの始まりは一カ月ほど前、大学の桜並木に花吹雪が舞う四月のこと――。


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原作の方が大好きで、二次創作を見つけた時はめっちゃ嬉しかったです! 出だし面白いのでこのまま最後まで読んじゃいます!
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