動かない石
「人の生活を何だとおもっているんだ!」
大勢のもと労働者たちと共に同じような怒声を張り上げて自分たちの思いのたけをぶちまける。
先日の一斉解雇がすべての原因だった。寝耳に水の出来事で、明日からの生活がひどく不安なものに思えた。気づいていなかっただけでこれまでもそうだったのだろう。高校を卒業して8年、工場で働く以外の生き方など知らぬまま成長してきた。今更どんな道があるのか。
思案しながら外をぶらついていると、足は自然に工場に向かっていた。その周囲に元同僚が集まっていることに気づいた。
一人の男をぐるりと囲むようにして集まっている。集まっている元同僚の一人がこちらに気づき近付いてきた。
「あんたも解雇されたクチだろ。ちょっと話を聞いていかないか」
何やら怪しい雰囲気だったが、どうせやることはないのだ。何かあるなら乗ってみよう。そう思い頷いた。
連れられて輪の中心にまで入り込む。二度とは戻れないような感覚を覚えたが、気のせいだと心の中でで念じる。不安と期待が心中に渦巻く。
中心にいた男は大きな声で、しかし穏やかに、今回の工場の対応がひどいものであるのかを説明した。その力強い説明に皆感じ入り、不当な扱いを受けたことに気づき、怒りを露わにした。
「こうしちゃいられん、抗議してこなきゃ気が済まん」
中年の男が叫ぶ。たしかこの工場で働かせてもらっていることに感謝していると常々口にしていた。それがクビになった途端にこうなると思うと少し可笑しかった。
「まあまあ、落ち着いてください。一人で行っても摘まみだされるのがオチです。」
「しかし、それじゃあどうすればいいんで?」
中年男は鼻息荒く捲し立てる。興奮した相手であっても落ち着きを保ち、自分のペースに引き込んでいく。巧みな話術を操る扇動者はおおよそこのような場所で何をしようとしているのか。
「もっと人を集めるんですよ。無視できないぐらいの大人数で訴えればあちらも対応せざるを得ないはずです」
扇動者は自信ありげな表情と共に言い切った。中年男も気圧されたように身を引いた。もはや言わずともわかる。この意見こそ最適解である。
「そこで皆さんに一つ提案なのですが...」