ヤンデレブラコンな幼なじみが心配な私の日常
知人に頼まれたものを載せ載せ。
朝5時。私は目覚ましの鳴る音と同時に跳び起きる。
学校に行くのには大分早く、部活の朝練に出る学生だってこんなに早く起きるのは稀だろう明朝だけど、私には寝過ごしたぐらいだ。
「ヤバイ。後5分もしたら”あいつ”が起きる」
私は最低限の身支度だけを済ませ自宅の一人暮らしのアパートを飛び出すと、隣の家に合鍵を使って勝手知ったる廊下を足音を点てず走り迷わず台所に飛び込んだ。
そうして入ったキッチンには案の定、私より先にキッチンに立ち朝食の支度を始めている”ヤツ”の姿があった。
「絆!!」
奴の御家族を起こさぬよう声量を抑えつつも極めてドスを効かせた私の声に、名を呼ばれた奴は振り向き女装させたら敗北を確信するほど極めて端正な顔にこれまた性別問わず魅了するだろう極めて爽やかな笑顔、そしてそれら全てを台なしにする底無し沼が透明だと錯覚しそうなほどどんよりと濁った目を私に向けながら朗らかに挨拶をしてきた。
「ああ、おはよう霙。今日も早いね」
「お蔭様でね。それより絆、なにしてんの?」
そう私が聞くと、絆は当然かつ普通の答えが帰して来た。
「早く起きたから朝ご飯の支度だよ」
答えに不審な点は無い。
事実、キッチンに並んだ食材も何もおかしいものは無い。
先に言っておくけど、絆の作るご飯は美味しい。
はっきり言えばこいつの作るご飯は敗北宣言するぐらい美味しいから、正直絆がご飯を作ってくれると言うなら外食なんかしなくていいと思える。
ただし、それが特定の個人になると話は変わる。
「縁のご飯の支度はしてないでしょうね?」
「いやあ、霙に毎日頼むのも悪いから先に済ませておこうかと……」
「ご心配なく。縁のご飯を作るのは楽しいから早起きも一切苦じゃないわよ」
「……ちっ」
こいつ、あらかさまに舌打ちしやがった。
「とにかく、おじさんとおばさんとの約束なんだからさっさと替わりなさい」
「……」
無言で渾身の憎悪を込めた目で私を見つつも、絆は大人しく従う。
準備された材料から汁物は蜆の味噌汁と断定し朝食の作業に取り掛かりながら私は思う。
絆はたった一つを除き完璧だ。
顔も良い。性格も素晴らしい。学校の成績も優秀。部活や委員会はしてないけど頼まれれば完璧に熟し、人望も絆が立候補しなかったから生徒会長になれたと現在の会長が言われるほどだが、その会長本人もそれを認めて席を譲りたいと言ってくるほどの完璧超人。
だけど、こいつにはたった一つだけ致命的な、先の美点を以てしても擁護出来ない致命的過ぎる欠点があるのだ。
「おはようみぞれ姉ちゃん。兄ちゃん」
それが、目を擦りながら現れた絆の弟『縁』(10歳)。
「おはよう縁」
「おはよう縁。そしてごめんね縁。今日こそは縁のご飯作ってあげようと頑張って朝は鉄分が良いって聞いたから手っ取り早く自分の血で鉄分補給……」
まくし立てるというか弾幕のように一部ヤバイ発言をしている絆を無視して私は言う。
「もうちょっとで準備できるから座ってて」
「うん。みぞれ姉ちゃん」
素直に椅子に座ってくれる縁から目線を外し目尻で絆を見る。
「………」
うん。手に刃物がよく似合いそうな顔でこっち見てるよ。
「絆。お皿頂戴」
「……ああ」
慣れてる私が気にせずそう言うと、縁がいるから声と態度だけは普通に食器棚へと向かう絆。
お分かり頂けたと思うけど、絆の致命的過ぎる欠点とは弟に対する極度のブラザーコンプレックスなのだ。
しかも発言でも解る通りサイコ、所謂”ヤンデレ”と言われるほどの重症。
そのせいで縁が心配な私は絆の暴走を少しでも抑えようと、今のような朝の暴挙を遮るため得意でなかった早起きを当たり前にまで昇華させ、絆と同じ学校に通うため苦手だった勉強を半年で学年二位まで押し上げ推薦を勝ち取り、学校でも可能な限り同じ授業を選択して絆を監視しているのだ。
「「「いただきます」」」
私が作った朝食を三人で食べていると絆が突然私に聞いて来た。
「そういえば霙」
「なによ?」
「最近、剣道部の主将からまたよくない噂を聞いたけど大丈夫?」
「……」
誰のせいだ。
私は辛うじてその言葉を飲み込んだ。
絆を監視している私は必然的に他の誰よりも近くにいることになり、お陰で学校では交際疑惑が持ち上がっているのだ。
そのうえ、絆は絆で「女の子では霙が1番好きだよ」なんて言ってくれたものだから女子の半数以上が私を敵視してくる。
「大丈夫よ。絆のお蔭様でいじめとかはないから」
私の言葉に嘘は無い。
実際、本気で身の危険を及ばされかけたことがあったけどそれ自体は未遂で済んだし、それを知った絆が起こしたちょっとした事件のお陰でそれ以降一度も無い。
その事件とは、よりにもよって全校集会の校長の演説を遮り檀上に上がって宣言したのだ。
「霙に手を出したら誰であろうといかなる手段をも持って報復とその後に人生が続くことを後悔させる」
その宣言のお陰で絆に友好的な部活の主将やら部長やらが自主的に結託し私を守る派閥を生み出したのだ。
当然反対派も少なくは無いが、絆に協力的なのは教師にも多く、結果として現在は落ち着いているが当時は女子の嫉妬と手を出せない歯痒さからの某に居心地が非常に悪かった。
まあ、絆にあそこまで言われたのは嫌じゃなか……
「はっ!?」
私は今何を考えていた!?
「どうしたのみぞれ姉ちゃん?」
「な、なんでもないよ。ちょっと喉に引っ掛かっただけだから」
「……そう?」
縁が不思議がりながらも食事を再開するのを私は内心胸を撫で下ろす。
気の迷いを振り払い後から起きて来た二人のご両親に感謝されつつ、私は遅刻も是非もないという態度で縁に引っ付こうとする絆を引きずって登校する。
「……」
しかし、今日はいつもと絆の様子が違った。
いつもなら私以外に聞こえない声で怨嗟の呪いを吐き続けるのに、今日に限っては静かに着いてくる。
「霙」
「なによ?」
「来月私は18になるんだ」
「幼なじみなんだから知ってるわよ」
「だから結婚しよう」
………………………………………………………はい?
「で、返事は?」
「ちょっと待ちなさい」
何を言い出してんのこいつは?
「あんた、変な物でも食べた?」
「霙が作ったご飯が変だからそれなら」
「よし殺す」
おもいっきり拳をぶつけるが、逆に私の手が痛かった。
「酷いな。本気なのに」
「………なんで?」
はっきりいうけど、絆に刺される覚えはあっても求婚される覚えは私には無い。
「いや、縁が昨日言ったんだよ。
『霙が本物の姉ちゃんだったら嬉しい』って。だから結婚しよう。
大丈夫。縁が好きなら私も好きだからちゃんと愛してあげるし縁と縁の子供と僕たちの子供の次ぐらいに幸せにしてあげるよ」
「………」
普通なら刺されても大体の人は許してくれるだろう素晴らしい理由を当たり前に言う絆。
…………こう言うとき、私はどう答えるべきですか?
そう、信じてもいない神様に質問してみた私だった。
余談ですが、書かせた本人は「違うそうじゃない」とチベスナ顔でした。