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4.侵略国の末路

「ですが、兄上の暗躍のおかげでカリーナのベールが脱がされずに済んだのも事実ですので」

「あぁ、なるほど。アグレシオンの前にその瞳が晒されずに済んだか」

「えぇ。ありがとうございました」

「いや。本来であればヴェレッツァ王国を守るべきだったのだ。それが出来なかった我が国としては、もう失うわけにはいかぬ」

「そう、ですね」


 …………あれ……?そういう話題、でしたっけ……??


「今後は復興を第一に考えねばならぬからな。その為にも、何度か足を運ぶ必要が出てくるだろう」

「誰よりもカリーナが適任、なのでしょうね」

「英雄と同じこの瞳も、受け入れられはするのだろうがな」

「ヴェレッツァアイが絶えていないという事実こそ、民たちにとって希望となりましょう」

「だな」


 ヴェレッツァの王族の血脈は、途絶えていないのだと。今後は大々的に発表して、各地を回る必要が出てくるということなんだろう。

 さすがにこのくらいなら、私も分かるようになってきた。


「しかしまぁ……流石にあの国は恨みを買いすぎたな」

「逃げ帰ることも出来ずに討ち取られたと聞きました。予想通りとはいえ、それはそれは執拗に追い回されたとか」

「国にいた王子たちも同じだったらしいな。自分たちがして来たことがそのまま返って来たようで、貴族も含めて関わった者達は全員処されたそうだ」


 そう。アグレシオンという国は、すでにもう存在しない。それどころか、王族だけじゃなく貴族たちや一般市民でも無関係じゃない人は全員処刑されたらしくて。

 確かに侵略国家を名乗っている上に、侵略した先の国を放置してちゃんと統治していなかったらしいから。不満だって溜まっていたんだろう。

 けどまさか、そこまで過激になるなんて思ってもみなかったから。


「我が国の民達は当然の事ながら、ヴェレッツァ王国の民だった者達も関わっていないと聞いた時には、流石に驚いたがな」

「彼らにとって、恨みを晴らす事よりも優先すべき存在がいますからね。そんな事に関わっている暇があるのなら、一刻も早く復興したいというのが本音なのでしょう」

「王族のみならず、民達にまで同じ思想が浸透しているとは……。そもそもにして気質が同じなのか、それともヴェレッツァアイがそれ程までに大切なのか」

「どちらもでしょうね。だからこそ、神聖視していたのでしょうし」


 …………いや、あの……。似た顔二人で、こっちを見ないでもらえますか?

 私の瞳について話しているわけだから、それを見たくなるのは気持ちとしては理解できるんですけれどね?

 美形二人に見つめられると、流石にいたたまれなくなります。しかも瞳を逸らすのはなんか悪い気がするので、なおさらなのですがっ!?


「……自らの血族の最期を、知っているのか?」

「え、っと……?」


 陛下がこちらを見つめながら問いかけてきたそれは、きっとヴェレッツァ王国の王族たちを指しているんだろう。

 アグレシオンに侵略され殺されてしまったという、私の家族たちを。


「カリーナの耳にそれを入れるような者はいなかったかと思いますが?」

「そうか。では知らぬままなのだな」

「そもそも彼女がヴェレッツァの王族の血筋だと、ほとんどの者達が知らずにいましたし。私も確信を持てたのは、妃として迎え入れてからでしたから」

「ほぼ間違いないとは思っていたがな」

「証明できる物が何一つありませんでしたから。印章も本人が理解出来ていなければ、問いかけた所で無意味ですし」

「まぁ、な。特に印章など、余程信頼した相手にしか明かさぬ物だ。見せて欲しいなどと、気軽に言える物ではない」


 確かに。

 たとえ側仕え時代に殿下や陛下に聞かれていても、知らぬ存ぜぬを貫き通しただろう。

 だってあれは、そういう(・・・・)ものだから。

 本当に信頼できる相手にしか見せてはいけないと、約束していたから。


「知らぬままでも、良いのかもしれぬな」

「アグレシオンは既に亡き存在ですからね。再興も出来ぬ程、全てを潰されたのでは……」

「侵略国の末路など、そんなものだ」


 恨まれて当然のことをした人たちが、負ければ一気にそれが自分たちに返ってくると。より強い恨みになっているのだと、理解していなかったのか。

 あるいは、負けることはないと高を括っていたのか。

 戦う前から負けること前提で向かう国なんてないんだろうけれど、それでもその後のことを何も考えていなかったのは、統治すらまともにせず放置していたところからも窺える。

 むしろ恐怖で押さえつけるだけだったからこそ、解放された後の人々の恨みや怒りが全て向くことになって。

 結果、恐ろしい速さで国としての崩壊を迎えた。


「もう二度と、アグレシオンという名は聞く事が無いのだろうな」

「同じような事をする国さえ生まれなければ、ですが」

「何。一度で嫌と言う程学んださ。次があれば、早々に潰してくれる」

「……なるほど。では各国との外交の際、抑止力となれるよう軍を鍛え続けなければなりませんね」

「期待しているぞ」

「はっ!」


 最後はなんだか、完全に政治的な話で終わってしまったけれど。

 直後二人して真剣な表情から一転、噴き出すように笑っていたから。

 たぶんこれは、穏やかな会話の終わり方だった。そう、きっと穏やかだ。


 そう思っておかないと、なんだか色々遠い目をしたくなっちゃいそうで。


 とりあえず癒しが欲しくて、私はずっとサントーニオ君とサリーちゃんを撫でていた。

 二人の会話の間、一言も鳴きもせず大人しくしていて。本当にお利口さんたちなんだなと、実は一人感心していたのだった。



 余談だけれど。


 結局サントーニオ君とサリーちゃんは、両方とも私を主人に指名してくれたらしく。


 まだ乗馬が下手な私に付き合って、この後から時折この場所を一緒に歩いてくれるようになった。



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