薬の魔女1
本日より、薬の魔女視点をお送りいたします。
ちょっとどころじゃなく、不愉快になるかもしれませんので……。
グロテスクではないですが、一応このおまけ③に関してはご注意ください(汗)
「レベッカ、あんたの薬はホントによく効くねぇ」
「当然だろ?アタシを誰だと思ってんだい」
馴染みの客に感心したように言われたけど、アタシの薬は効いて当然。これまでどれだけ長い間、薬一筋で生きてきたことか。
アタシよりも薬に詳しい人間なんて、そうそういるわけがないだろう。
「あっはっは!確かにねぇ!あんたが作れない薬なんて、若返りと死者をよみがえらせる薬ぐらいだろうさ!」
「フンッ!」
あぁ、そうさ。その二つは作れないさ。
作れるのなら、真っ先に若返りの薬を自分に使っている。
「老いと死だけはどうにもなんないねぇ」
「お偉い貴族達だって同じなんだ。アタシら庶民が手に入れられる限界を考えれば、十分すぎるくらいだろ」
「まぁねぇ」
「無駄話する暇があるなら、とっとと薬代払って家に帰んな」
「ハイハイ。あんたの邪魔はしないよ」
そのつもりならイヤミなんて言わずに帰ってくれ。
大体こっちは、五十過ぎるまで薬屋一筋でやってきてんだよ。これまでの知識と経験でどうにもならないんなら、もう人間には不可能な領域の薬だっていうのに。
「そんな話、聞きたくもないね」
死者をよみがえらせることに興味はないが、若返りの薬には興味がある。
だってそうだろう?長く生きられれば、それだけ新しい薬が作れるじゃないか!
世の中には改良が必要な薬が数えきれないほどあるんだ。薬だろうが毒薬だろうが、完璧なものを作ってみたいじゃないか。
「圧倒的に、時間が足りないけどね」
人間の寿命なんてたかが知れてる。そんなこと、アタシだって分かってるさ。
だから短い人生の中で、身につけられる薬の知識は必死になって貪欲に吸収し求めてきた。
そこいらの薬屋なんかには負けないっていう、自信だってある。
だから。
「ホント、腹が立つねぇ」
アタシが作れない薬があるなんて、あんな風に言葉にされるのは。
「もっと長く生きられりゃあ、よかったのに」
こんなにも短い期間しか生きられないように人間を作った世界に、怒りすら通り越して憎悪すら覚える。
世界信仰なんて、アタシには知ったこっちゃない。
だって世界は、特別に何かしてくれたわけじゃない。知識を得るのだって生きるのだって、アタシ自身が必死にやってきた結果だ。
そう、だから。
「は……?魔女……??」
その世界から、ある日突然"薬の魔女"に選ばれたと。そう告げに来た"預言の魔女"を名乗る老婆に。
何のことだと連れられて行った先で出会った、他の魔女たちに。
「ふざけるなっ!!!!」
世界が押し付けてきた理不尽に、耐えられるわけがなかったのは当然だろう。
そもそも平等ですらなかったのだと知って、どうして素直に受け入れられると思っている?
しかも預言の魔女はともかくとして、他の魔女たちはかなり若い時期に魔女として選ばれたっていうのに。
なんでアタシは、今更になって選ばれた!?
これから先いくらでも薬の研究が出来ると、素直に喜べるわけがない。
むしろこんな自由が利かなくなってきている体になった今更になって、魔女に選ぶなんて。
何より。
周りの魔女として選ばれた、どう考えてもアタシよりも若く見える奴らが。
実はアタシが生まれるよりもずっと前から生きていて、好きな事を続けているなんて。
アタシはこんな、醜い皺だらけの体になってるっていうのに!!!!
「何が世界だ!!何が魔女だ!!!選ぶのならもっと早く選べば良かっただろう!!!!」
見た目だけは若い年寄りたちの中に、一番若いのに年寄りの見た目のアタシを放り込むなんて!!
世界はアタシに恨みでもあるっていうのかい!?
「どうしてもっと早い段階で時間を止めなかった!!どうして特別扱いされる人間が大勢いる!!」
こっちは必死に、薬一筋で生きてきたっていうのに!!
若い頃から誰よりも効く薬を作ってきたっていうのに!!
「世界は何一つ、見てなかったってことじゃないか!!!!」
あぁ!!腹が立つ!!!!
アタシが若返りの薬を作れないことを、あの魔女たちに会うたびに突きつけられてるみたいで。
お前は無力なのだと、世界からあざけりを受けているみたいで。
「いいじゃないか……。折角の永遠の命だ。完璧なら良薬でも毒薬でも構わない。若返りの薬だってそうだっ。作ってやろうじゃないかっ!!」
そうして、世界に認めさせるのだ。
もっと早く選んでおくべきだった、と。
間違っていたのだ、と。
世界そのものを、見返してやろう。
そうして謝罪をさせるのだ。
そう、決意していたアタシの元に。
世界が特別視している存在がいるのだと。
英雄の子孫という、特殊な人間がいるのだと。
さらに腹が立つ情報が入ってきたのは、アタシの名前を知る人間が誰一人いなくなった頃のことだった。