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5.薬の効果

「まぁそういう事だから、色々と仕掛けられていたんだよ。例えば……なぜか(・・・)侵入できた、貴族の息子どもとか、ね」


 言われて、まだ殿下の側仕えだった頃のことを思い出す。

 そういえばあの二人は、どうしてこの階にいたのか。


 …………あ、れ……?

 そういえば、あの時はそれを疑問にすら思わなかった、かも……?


「…………セルジオ……」

「……申し訳ありません。何一つ、調査しておりませんでした……」

「私もだ。本来であればその場で捕えて、色々と聞き出すべきだったところを……」

「疑うという事を、しておりませんでした」


 そう、そこ。

 どうして、と。最初に思うべきだったのに。


「そもそもにして、この城中に徐々に仕掛けが施されていたんだがな。その理由が、これだ」


 そう言ってお婆さんがテーブルの上に置いたのは、香炉(こうろ)と呼ばれる小さな入れ物。色は地味だけれどしっかりとした作りのそれは、見た目にはこだわらないのかとても簡素で真っ黒な色をしていた。


「これに薬を入れて、常に空気中にその成分を飛ばす。それによって対象の認識を阻害させ、普段以上に判断力を低下させる」

「判断力の、低下……」

「ちなみにこれは、この階の一番端に置かれていた。しかも両端に一つずつ、な」

「っ……!!」


 それは、つまり……。


「これを置くために、二人必要だった、と。そういう事だ」

「……そして、それを実行できるほど城内に侵入されていた、と」

「正確に言えば、これよりも効力の弱いものをあちらこちらに置いてこさせていたんだ。別の薬を渡す報酬として、な」

「なんてことだっ……!」


 ギリッと唇をかむ殿下は、きっと気づけなかった事を悔やんでいるのだろうけれど。

 でも、これは……今までの話の流れからすると、ひょっとして……。


「お前の怠慢ではない。何せこの時は、世界の意思から外れた行為ではなかったから許されていたのだ」

「外れて、いない……?」

「何と言うか……抜け目がないほど優秀では、ヴェレッツァアイの子が嫁ぐのが遅くなりそうだから、と」

「そんな理由でか!?」

「文句なら世界に言え。今だって聞こえているんだから」

「それはっ……!!だが!!」

「むしろこれだけ強い薬を使われておきながら、あれだけの仕事をこなしつつ指示も出せるなど……宮殿の私室にまで置かれていたとは思えないほどだがな」


 私室、って……まさか!?


「殿下の私室にも、同じ物があったってことですか!?」

「同じ物どころか、一番強い薬が入れられていた。それであの程度なのだから、もはや流石としか言いようがない。世界も張り切りすぎだ。限界まで英雄に似せたらこうなると、何故予想できなかったのか……」

「英雄に、似せた……?」

「ドゥリチェーラの王子は、誰もかれもが同じような顔つきをしているだろう?あれは英雄の顔だ」

「英雄様の……」

「だが能力は、それぞれ違ったはずなんだがな。英雄の望みを叶えられるからと、世界が出来る全てを尽くして限界まで英雄に似せて生み出されたのが、そこの坊やだ」

「それは……」

「見た目はいつものことだが、何せ能力が高すぎる。あれもこれも一人で出来るなど、英雄の再来と言われてるのも間違いじゃないってことだねぇ」


 え、じゃあ……もしかして殿下が生まれてくるまでに、ものすごく時間がかかったっていう王太后様のお話……。

 あれってもしかして、そのせいだったのでは……?


「とはいえ流石にそれじゃマズいってことで、こんな強引な手を使うことになったってことさ。ほら、思い当たる節は他にもあるだろう?」


 ちょっと意地悪そうにそう告げられた殿下の表情は、苦虫を嚙み潰したようで。

 私はあの後一度お城から出てしまっているので、どのくらい影響があったのかも何があったのかも分からないけれど。

 それよりもむしろ、あの日に置かれていたとすれば……一体、いつまで効果があったのか。

 そちらの方が余程気になってしまう。


「ま、流石にもう必要ないからと世界から回収命令が出てねぇ。薬の魔女の代わりに、私がこうして回収してまわってたってことさ」

「それは、ありがたいが……」

「今後はヘマしなくなるだろうさ。逆に色々と思い通りに進むようになるんじゃないかねぇ?そう、色々と……ね」


 妙に含みのある言い方は、いったい何なのか。

 そしてなぜ、一瞬こちらを見たんですか?


 けれどその質問をするよりも先に。


「あぁ、そうそう。ヴェレッツァアイの子にかけられた薬の魔女の魔法の効果は、とっくに切れてるよ。何せ本人が力を失ったからねぇ」

「私、に……?」


 そう気になる言葉を告げられてしまって、質問どころじゃなくなってしまった。

 だって。


「どういう、事だ……?この薬以外に、私の妃に一体何をしたと……?」


 隣に座る殿下が、それはそれはお怒りで。

 静かなのに、それが逆に怖い。


「もう覚えてはいないだろうが、まぁ……あの令嬢達に会った時のことから、少し話してやろう」


 それなのにお婆さんは、どこ吹く風で一人のんびりと話し始めてしまうから。

 当事者のはずの私は、どうすればいいのか違う意味で分からなくなってしまった。



 優秀なはずの殿下が、色々と見落とすポンコツになっていたのはこういう理由でした。

 そして伏線の回収は、さらに続きます。



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