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44.愛しい我が子

 妊娠が分かってからは、あれよあれよという間に周りが色々と準備をしてくれて。

 今まで以上に過保護になった殿下のせいというか、おかげというか。

 ありがたい事に、何一つ問題も起きないまま。何なら宮殿から出ないでお菓子作りまでさせてもらって、日々を過ごしていたら。

 あっという間に、臨月まで来ていて。


 出産は…………正直、ものすごくつらかったし痛かったし疲れたけれど。

 その分、産まれてきてくれた我が子は、本当に可愛くて可愛くて。


 まさしく、愛しい我が子、なわけで。


 ちなみに。

 見た目は流石と言うべきか、殿下そっくりの色彩で。

 目はまだ開いていないけれど、おそらく瞳の色も同じだろうと言われている。

 王族は基本的に例外なくそう生まれてくるのだとか。

 しかも男の子だったからなおさら。


 ただ、陛下にも既に王子が生まれているので。私たちの子供が王位を継ぐことは、おそらくはほぼほぼないだろうと思っている。

 むしろヴェレッツァの統治を、この子が今後していかなければならないのかもしれない、と。

 殿下と二人、この子の将来について色々と話しているところだ。



 そうして穏やかに、日々を過ごして。



「フェーリクス…?眠いの…?」


 先ほどまで楽しそうに絵本の読み聞かせに耳を傾けていたかと思えば、ようやくしっかり開いて物を追うようになった目を完全に閉じてしまう。

 この子の瞳は、誰もが予想していた通り殿下と同じ淡いブルーだった。

 それを嬉しく思う私とは反対に、殿下はヴェレッツァアイではなかったことを残念に思っているみたいだったけれど。

 そこはまぁ、次の子に期待しましょうと言っておいた。


 だって殿下の事だから、どうせ一人だけで済ませるつもりはないだろうし。

 何より兄弟がいた方が楽しそうだから、この子にもいずれ弟か妹は産んであげたいと思っている。


 とはいえ。


「フェーリクス、眠い時は眠ってしまっていい。無理に起きている必要はない」


 残念そうにしていたのとは正反対に、それはそれは我が子を可愛がっている殿下がいるのだけれど。

 今だって、まだ少しだけ毛が薄い頭を優しく撫でて。柔らかく声をかけている。

 もちろんその顔は緩みっぱなしで、唇は常に弧を描いているような状態だった。


「くぁ……」


 殿下がそういう状態だからなのか、それともそういうものなのか。

 まるで言葉をしっかりと理解しているかのように、素直にあくびをして。

 そのまま本当に眠りに落ちて行ってしまう様子は、とても微笑ましい。


「本当に、素直で賢いいい子ですね」

「君と私の子だからな。当然だろう」


 親ばか発言も何のその。

 当然のように言い放つ殿下がなんだかおかしくて、つい笑ってしまう。


「おかしいか?」

「いいえ。ふふっ…。なんだか、微笑ましくて」

「そうか?私からすれば、先ほどまでの読み聞かせの時の方がよほど微笑ましく見えたが?」

「そう、ですか?」

「幸せそうに微笑むカリーナと、柔らかな声に真剣に耳を傾けるフェーリクスだ。絵姿を残させたいほどだったぞ?」


 そ…それは流石にちょっと……。

 でも、そうか。私は幸せそうな表情で読み聞かせをしていたのか。


「英雄様の物語ですから、つい私も嬉しくなってしまって」


 ドゥリチェーラの王族は、必ず聞かされて育つというそれは。内容は少しだけ違うけれど、私も小さな頃に聞いていた寝物語で。

 もちろん私が読んでいた本は、フェーリクスのために作られたこの子のためだけの本。


「ドゥリチェーラの王族は、ヴェレッツァアイを好ましく思うらしいが……ヴェレッツァの王族もまた、英雄が好きすぎるな」


 少しだけ苦笑しているのは、この真新しい本を見た時に一番はしゃいでしまったのが私だったからなのか。

 子供のように喜んだわけではないけれど、それでも内心とても興奮していたのは殿下にはお見通しだったみたいで。

 あとからそれはそれは楽しそうに笑われた。


「お互いにお互いのことが好きなんでしょうね。私もアルフレッド様やフェーリクスの瞳の色を、好ましく思いますから」

「ふむ…瞳だけ、か?」


 子供が完全に夢の世界に旅立ったからなのか、それとも私の発言がいけなかったのか。

 気が付けば殿下に腰を抱かれ、フェーリクスにするのとは違う手つきで髪を優しく撫でられていて。


「あ、の……」

「私が君を好ましく思う理由は、ヴェレッツァアイだけではないのだがな?」

「わ…私だって…!」

「ではそれを証明しておくれ?」

「……え…?」


 ふんわりと微笑んで、殿下は私の髪をなでていた手を頬に当ててきて。そのまま、親指でゆっくりと私の唇をなぞる。


「っ…!?」

「カリーナ……」


 優しく呼ばれた名前と落ちてきた影に、驚きながらも見上げた先で。

 殿下は至近距離で私と目を合わせていて。


「あ…の……」

「証明を。カリーナ?」


 それだけ言って、なぜか目を閉じてしまう。


「…………!?!?」


 いや、なぜか、ではない。

 明らかにこれは、私から口づけろという合図で。


「~~~~~~っ…」


 私達家族以外、誰もいない部屋の中。

 すやすやと眠る、愛しい我が子のすぐそばで。

 どうあっても、目的を達成するまでは解放してくれないであろうことが分かってしまった私は、素直に観念する。



 ただ、その……。


 その後のちょっと激しい口づけは、流石に……。


 久々に、腰が砕けそうになりました。





 次回、続編の本編終了!!


 とはいえ本編は残り1話ですが…。

 今回もかなりの話数のおまけ掲載予定なので、まだまだ終わりません(笑)



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