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33.ヴェールを脱いで

「な、にを…おっしゃっておられるのか……」

「そう動揺していては、真実だと告げているようなものだぞ?」

「っ…!!」


 大きくなる後ろからのざわめきと、徐々に顔色を悪くするお爺様がなんだか気の毒で。


「殿下……」


 流石にここまでにしておきましょうとの意味を込めて、そっと呼びかけた。


「うむ。悪戯に不安を煽りたいわけではないからな」


 それに応えてくれた殿下は、そっと私に手を差し伸べて。少しだけ離れていた距離を、その手に自分の手を重ねてから詰める。



 殿下の真隣。そこに並んで。


 レースのヴェールを脱いで、伏せていた顔と瞼をそっと上げた。



「っ…!!!!そっ……その瞳はっ……!!!!」


 しっかりと目と目が合った瞬間、お爺様は驚きに目を瞠り息を呑み。

 思わずといった風に言葉を零したかと思えば、そのまま黙り込んで目に涙を溜め始めてしまった。


「母が昔、こちらでしばらくの間お世話になったとお聞きしたのですが。覚えていらっしゃるでしょうか?」

「あぁっ……!まさか、そんな……!姫様の……!!」


 その言葉を聞いた瞬間、私の瞳が見えていないはずの人たちからも驚きの声が上がった。

 きっと彼らも、私の知る人たちと直接交流があるんだろう。


 今度ゆっくり当時の話を聞きたいと思いながら、今はやるべき事告げるべき事を優先する。


「長い間お待たせしてしまいました。遅くなってしまってすみません」

「いいえっ……!いいえっ、そんな…!!ヴェレッツァアイを持つ王族の方がこの地を訪れて下さっただけでも…!!待った甲斐があったというものですよ…!!」


 その言葉に嘘はないのだろう。

 嬉しそうに、泣きそうな顔でそう言うお爺様の声は。

 感極まったかのように、少しだけ震えていたから。


「まさか……まさか生きている間に、もう一度唯一の主とお会いすることが出来るなどと…………夢にも思ておりませんでしたから……」

「母を、ドゥリチェーラ王国へと逃がしたから、ですか?」

「姫様を友好国へお預けすることは、初めから(・・・・)決まっていたことですから。ですが……この地がいつまで敵の手の中にあるか分かりませんでした。それが解決しない限りは、たとえ何十年経とうが王族の方をお迎えすることは出来ない、と。そう思っておりました」

「…待て。今初めから、と。そう言ったか?」

「…………」


 黙って私の目を見ているお爺様からすれば、確かにヴェレッツァの王族だけが主なのだろう。

 だからこそ、話すかどうかは私の(・・)許可がいる。


「教えてくれませんか?私も、真実が知りたいのです」

「承知いたしました」



 そうして語られたのは、ヴェレッツァという国が滅ぶことが予言されていたこと。それを知った王族が、ある程度まで育っていた末の姫をこの場に一時的に逃がすことを決意したこと。

 そしてその先で、ドゥリチェーラ王国が秘密裏に末の姫を匿う事を約束してくれたことだった。



「そのような……」

「当時まだお若かったオルランディ家のご長男が、頻繁にこの地を訪れてくれておりましたので。真実を知っている人物は本当に僅かだったのではないかと思っております」

「当時のオルランディ家の長男と言えば……」


 きっとそれは、私の父親に当たる人になるはず。


「お若いがゆえに、頻繁に訪れても不審がられないだろうとのご配慮でした。ですがその後……」


 ドゥリチェーラは国王の崩御、ヴェレッツァは他国の侵略。お互い交流が出来る状態ではなくなってしまった。

 そして同時に、彼らには一切の情報が入らなくなってしまった、と。


 だから。


「つい先日、懐かしい顔がふらりとこの地を訪れて……詳細は語ってはくれませんでしたが、近々いい事があると教えてくれたのです」


 もしかしたら誰かが潜んでいるかもしれないからと、その時には多くは語らないと決めていた。


「まさか姫様にお子様がいらっしゃったとは……。いえ、ご年齢を考えれば当然なのかもしれませんが」


 そしてそれは同時に、悲しい知らせも伝えないという事で。


「姫様はお元気ですか?可能であればまたこの地を訪れて欲しいものですが……」


 期待に満ちた目に、真実は酷なのも分かっていたけれど。

 伝えないという選択肢は、あるはずがないから。


「母は……十年以上前に、流行り病で……」

「っ…!?!?そんなっ……!!」


 今度はこちらが語らなければならない真実は。


 彼らに大きな衝撃と共に伝える事になってしまった。



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