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20.甘すぎる罠にご用心

 充実した初めての主催のお茶会の後から、たくさんの方々からお手紙やお菓子、中には宝飾品までいただくようになってしまって。


 あのお茶会で仲良くなったご婦人やご令嬢との手紙でのやり取りは、結構頻繁に行っているけれど。

 流石に、会ったこともない人との手紙のやり取りは、どうすればいいのかよく分からなくて。

 なのでその辺りは王妃様に助言を頂きながら、上手くやりくりしていたけれど。


 問題は、お菓子と宝飾品。


 宝飾品に関しては、まず私はあまりつけていく場所がない。

 その上殿下が、その……。


「私以外の男が贈った物など、君には身に着けて欲しくはないのだがな?」


 なんて。



 あれは、嫉妬…?嫉妬、なのかな…?


 笑っているようで笑っていない笑顔だったから、思わず素直に頷いたんだけど……。


 よかったんだよね?あれで。

 間違ってないよね?私。



 そんな風にちょっと不安になりつつも、お返しする際に「殿下から頂いた物を身につけたいので」と一言手紙を添えるのも忘れないようにしておいた。

 決して。えぇ、決して。

 殿下本人が嫌がっていましたよ、なんて。

 そんなことは書かないように注意して。


 たぶん書いたが最後、相手の貴族は真っ青になるだろうから。

 その辺りはね、ちゃんとね、学んだんですよ。分かるようになったんですよ。

 だから失礼にならないように、あえて私が(・・)殿下からの贈り物だけで十分なんですアピールをしておく。


 ちなみにそれを提案したら、それはそれは上機嫌になられましたよ。殿下が。


 なので間違ってなかったんだなと思って、遠慮なく宝飾品は送り返しているのだけれど。

 残念ながらお菓子に関しては、そうもいかない。


 だってこれ、私がお菓子作りに興味があるって分かった上で、善意で新作の参考にって送って来てくれてる人が大半だから。

 その上日持ちしないものも多いから、送り返すわけにもいかないらしく。


 結果。


「妃殿下。こちら毒見は終わりましたので。お召し上がりいただいても問題ないとのことでした」

「ありがとうございます」


 そう、毒見。毒見役が必要になってしまったのだ。


 返せないのなら受け取るしかない。

 そして受け取るのなら、食べて感想ぐらいはと。

 そう、思ったら、ですね。


「毒見役を用意しますから…!!」


 と。

 ものすごい勢いで、女官の方が部屋から出て行った。


 いや、勢いは凄いけど決して走らない辺り、流石だなと思ったんですけれどね?


 そして本当に、毒見役の女性が連れてこられた。

 女性なのは、女性にしか効かない薬が混入されている可能性があるからなんだとか。


 女性にしか効かない薬って、何…?


 そう思ったけれど、聞くのは怖いのでやめておいた。

 それにそういう事は、その場ではなく教師や侍医に聞くべきだと教わったので。

 一緒に対処法も知っておくべきだと助言をくれたのは、他でもない殿下とセルジオ様だった。


 説得力ありすぎて、逆に不安になったのは言うまでもない。



 そんなことを思い出しながら、食べていいと許可が下りたお菓子の中から気になっていたマカロンを手に取る。


 マカロン自体はそんなに珍しいものではないけれど、ここのお店は最近話題になっているらしいので。

 話題とか人気とかって言われると、何が凄いのか気になってしまうのは……私がお菓子作りをする側の人間だからなのか、それとも女性の性なのか。


 いずれにせよ、話題になるほどならまず外れないだろうと。美味しいのは分かり切った上で、ぱくりと食いついてみる。


 ちなみにカトラリーを使用しないのは、殿下に合わせてだ。

 一人の時は使ってもいいのかもしれないけれど、結局私が作るべきなのは殿下に出すお菓子だから。

 だったら食べる人の事を考えて、手で食べられるようなものかは第一に考えておかないと、と。

 そういう思いがあるので、手で食べられそうなものは手で食べてみる。そういう癖がついた。


 最初は眉を顰めていた女官やら執事やら教師やらも、理由を話せば全員が納得してくれて。

 納得、というか……。大きく目を見開いたと思ったら、全員が全員「あぁーー…」と大きく頷いていたんだけれど。

 あれは一体、何だったのか……。


 まぁでも、納得してくれたのならいいか、と。深くは追及せずにおいた。

 きっと私が知らなくてもいい事だろうと思って。


「ん…美味しいけど……。ちょっと甘い香りが強い、かも…?」


 味は悪くないんだけれど、その味に対して甘い香りが強すぎる気がする。

 これは殿下は食べられないだろうなーと思いながら、私も一つでやめておいた。


 ちょっと期待していただけに、残念に思いながら。

 用意してくれてあった紅茶を口に含んで、口の中と鼻の奥に残る甘い香りを流し込んですっきりさせる。




 だけで、終われば良かったのだけれど……。



「んっ……はぁ…」


 残念な事に、私は気づかなかったのだ。

 あれによく似た香りを、既に一度嗅いだことがあったのに。

 知っていた、はずだったのに。


「妃殿下…?どうされました…?」

「わ、から、な……」

「妃殿下…!?」


 ちゃんと座っているのもつらくて、体が熱くて。

 テーブルに突っ伏して、意味もなく上がる息に泣きたくなる気持ちをグッとこらえる。


「誰か…!!誰か侍医を…!!それと殿下にも急ぎお伝えして…!!妃殿下がっ…!!」


 誰かが部屋の外へ走る音が聞こえていたけれど、それが誰なのかも分からないまま。

 やがてやってきた侍医に、媚薬を盛られたのだと告げられて。

 ベッドに連れていかれたまま、体の中で暴れまわる熱に苦しんでいた。


 ただ一人、殿下を思い出して求めながら…。



 毒見後のはずなのになぜ、とか。

 どうして私に、とか。


 疑問も浮かんでは来たけれど。


 それ以上に、この熱に耐えられないと思った私は。



 急いで宮殿に戻ってきてくれた殿下が、焦ったように私を呼ぶ声に。


 助けてと、求めてしまった。



 甘すぎる罠には、ちゃんと用心しないといけない。



 殿下が実践していたことの意味を、身をもって知ることになった日だった。



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